エミリア・ロマーニャの週末(2022年11月)、その10
ブリジゲッラBrisighellaのサン・ジョバンニ・バッティスタ・イン・オッターヴォ教会Pieve di San Giovanni Battisuta in Ottavo、またの名をトー教会Pieve di Tho’続きです。
前回は、延々と歴史を調べながら地下をうろうろしましたが、今回は本堂です。
入場してすぐに地下に突進したのですが、この全景、良いですよね。何がどう、っていうのではないのですが、こういうロマネスクの典型的なスタイルが、自然な様子で保たれているだけで、おお、と感動してしまうそういった眺めです。
解説を使いながら、見ていきます。
「現在の建物は、軽くアシンメトリー(後陣に向かって、少し広がっている)な形で、三身廊が、6本の円柱と7つのアーチによって隔てられています。」
アシンメトリーということですが、これは現場では全く気付きませんでした。歪みではなくて、右側が、ちょっと広がっているということのようで(有料でいただいた来た冊子だと、広がりは左側の方になっていて。入り口から祭壇前が、ちょっと左にずれているような形に見えます。おそらくそっちの方が正しいのだろうと思いますが、いずれにしても、入り口からのずれはかなり少なく、気付きませんでした)。
教会の後陣側は、トップの写真にあるように、今運動場のような広場になっているのですが、その運動場のレベルは、教会のレベルから、おそらく1メートル以上下にあります。その理由は不明なのですが、この歪みが、そういった土地の関連なのか、またはロマネスクによくある「不完全性」の具現化なのか、そのあたりは不明です。
上の図で、手前三分の一あたりに横線が入っていますが、それは、オリジナルの建物が、その線から後陣であったという事実を表すものです。詳しくは解説で。
「建物は、5つのアーチ構造、5本の柱の並ぶ二列によって身廊が三つに分割されていた。最初の円柱は、ファサードの壁に埋め込まれていた。おそらく、ファサード前にはポルティコがあった。
16世紀、正確には1570/1572に、教区司祭が、建物の拡張と修復を実施、現在の形となった。身廊は、各列一本の円柱を追加することで長くなった。そして、柱間アーチが二つ増えた。おそらくその際に、現在ある前室Pronaoが作られたろう。
付け足しは、当時あった様式的特徴を採用して、非常に注意深くなされた。そのためもあり、その当時に付け足された部分が、オリジナルの部分と乖離していることは、一見してわかるものではない。」
図を見ると、付け足された柱は、若干径が太いようですけれど、実際に何の違和感もなく、しっくりと溶け込んでいました。
おそらく、柱頭を活用した聖水盤の右側にあるのが、その付け足しの柱と思います。
なぜ、そのような拡張が行われたかというと、もちろん信者が増えたり、経済的にも潤ったから、ということなのでしょう。
しかし、歴史というのは、時として皮肉なもので…。
「建物は、16世紀の終わりに最大の広さとなったものの、まさにその時から、教会の非常に素早く激しい斜陽が始まった。
教会はラモーネ谷の中央部に位置していた。13世紀に、その管理地は、22教会に及び、さらに二つの修道院も含まれた。Santa Maria di CrespinoとSanta Reparata di Marradi(11世紀創建)。
17世紀にはじまるブリジゲッラの重要な成長、そして大司教区に属する教会(San Pietro di Fognanoなど)によってもたらされた遠心的な作用によって、この地域の教会の多くが、役目を失い、廃寺の憂き目をもたらすこととなった。
そして、おそらくそのために、(また、収入が激しく減ったことにより)、教会は放置され、手を入れられることもなく、古い時代の姿を保ったということはあるのだ。」
気合を入れて拡張した途端、すべてがうまくいかなくなった、みたいな悲しい歴史があったのですよ。でもそのおかげで、その後の手が入ることなく、このような中世の姿を残すことになったとは、かなり皮肉ですよねぇ。私にとってはありがたいことですが、拡張工事を実施した当時の教区司祭さんのお立場、面目、丸つぶれ…。
装飾性の高いアイテムや柱は、どうやらローマ時代のものの再利用らしいです。再利用による建築は、初期キリスト教時代から、この教会が建てられた11/12世紀頃限定のため、建物の起源が特定できるということです。
柱頭は、ローマなので、いかにもなアーカンサス系です。どれも、主に3世紀から4世紀のものとされているようです。
全体に装飾性は薄いのですが、唯一おっ、と思わされるのが、祭壇に貼られた浅浮彫です。
「祭壇に置かれた浅浮彫。8世紀から9世紀のもの。現在の建物におけるキリスト教の継続性を象徴的に表す内容。」
この砂岩に彫られた浅浮彫、1979/1980年に祭壇が作られた際に、ここに置かれたようですが、それ以前は入り口扉の上に置かれていたようです。
二人の天使の間で祝福するキリストを中心に二匹の子羊、二つの十字架、二本の棕櫚が見られます。
自然光では細部が見えにくく、と言って手持ちのライトを当てると、写真はうまく取れず、ということで、あまりよい写真が撮れませんでした。
かなりの浅彫りですが、表情などにロンゴバルド・テイストが見えるようにも思えますね。そして、相当素朴、というのか、ヘタウマ以前の、未熟な石工さんって様子です。
内陣近くの右側に小さな扉があり、そこを出ると、併設の建物とつながった中庭に出ます。
ちなみにですが、この中庭に、清潔なトイレがありまして、有難く利用させてもらいました。地域の集会などに使われるような公共のスペースになっているようです。
そういえば、この教会、なぜに日曜午後しか見学できないかというと、それ以外は主に結婚式など催事優先に使われているからなんです。問い合わせた際、主に結婚式とおっしゃっていましたが、お隣が墓地なので、お葬式もあると思います。だからトイレもあるのでしょうし、教会としてはそれなりに潤っているのだと思います。
この扉から入りなおすと、美しい柱の風景となります。
床が新しくてつるピカなのが、若干恨めしいですが、それにしても均整の取れた美しい建築です。
手前左側の柱は、どうやらローマのマイルストーンらしいです。
文字が、何とも言えない味に満ち溢れています。
ゆったりと見学して、最後に道を隔てた反対がに広がるオリーヴの美しい林を愛でてから、さすがに空腹を覚えていたので、手持ちの食料をいただいてから、ミラノを目指そうと思いました。
で、クルマのトランクを開けて、食料を探していたら、おずおずと寄ってきた老婦人がいます。何?と思うと、いきなり身の上話が始まりました、笑。
「数年前に夫を亡くして、ここの墓地に眠っていて、万聖節でもあるからどうしても会いたいと思って、頑張って歩いてきたんだけど、実は自分はちょっと前に自宅の階段で転んで足と背中が痛くて、来るのは本当に頑張って歩いてきたけど、また2キロの道を歩くのは絶対無理なの…。」
はぁはぁ、と聞きながら、見つけたミカンを食べるわたくし。
「で、あなたは上に行くの?下に行くの?」
は?どゆこと?私はこれからミラノに向かうので、ファエンツァ方面に行きますけど。
「それは素敵!ブリジゲッラの町の入り口まで、お願いします!」
問答無用で、ヒッチハイクされました、笑。
ばあちゃん、ほんと辛そうだったんで、こりゃ食べてる場合じゃないし、とすぐに出発せざるを得ず、その2キロ、数分のドライブでも、また人生を語られました。イタリア人ってホント語るよなぁ。会って5分くらいで結構人生見えちゃうくらい語るよなあ。
そんなわけで余韻を楽しむこともなく、強制帰路ドライブとなりました。予想外だった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日々の生活をつづる別ブログです。最近のミラノの様子などをつづっています。
イタリアぼっち日記 ブログランキングに参加しています。よろしかったら、ポチっとお願いします。
にほんブログ村 にほんブログ村 インスタグラムに、これまでのロマネスク写真を徐々にアップしています。
Instagram, Notaromanica
スポンサーサイト
2022/12/26(月) 15:15:58 |
エミリア・ロマーニャ・ロマネスク
| コメント:2
十字架が気になりました。 おお、模様組み紐ですよね。時代が推測できます。柱の馬蹄形と見まごうほど深いアーチもいいです。
所でお手洗い。 国内旅行をするようになって何よりうれしいのが 隋所にある清潔な洋式トイレ。昔のお寺は廊下の隅に和式でしたが、今は どこもピカピカの洋式が備えられています。お手洗いを考えると、ヨーロッパにもう行けないのも情けなくないと、おもうほどです。
2022/12/27(火) 04:10:56 |
URL |
yk #i3bnT8TU
[ 編集 ]
磔刑像って、あまり興味がなくて、ちゃんと見てなくてごめんなさい。
全体に、意外と地味だなって驚きでした。ここ、とっても有名なので、すごく何かを期待しちゃってるところありました。しかし有名なだけあって、結婚式には引っ張りだこらしいし、お葬式も、ということで、日銭稼ぎにもたけているのでしょうね。なんて失礼かしら?でも、そのおかげで、色々きちんと保存されているのは、大変ありがたいことです。
お手洗い、ロマネスク修行には、必ず付いて回る問題ですね。日本の状態になれている日本人は、ロマネスクのみならず、海外は厳しいと感じる方多いのでは。それもガラパゴス的な点かもしれませんね。
2022/12/30(金) 17:53:40 |
URL |
Notaromanica #-
[ 編集 ]