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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

メロヴィング朝の遺構、サン・ジャン洗礼堂

ポワトー/シャランテ、51

初期キリスト教時代、イタリアだと、わたしの大好きなロンゴバルドの時代につながるのですが、ここでは、カロリングの前のメロヴィング。そういえば、メロヴィングは、名前は知っていても、その遺構は少なく、実際に目にしたことはほとんどないかも(メロヴィング朝、という新書をずいぶん前に買ったものの、いまだに積読だし)。
ここ、サン・ジャンでは、その片鱗に接することができるので、とても貴重な場所だと思います。

このかつての洗礼堂は、博物館ともなっていて、メロヴィング時代の石棺がたくさん置かれています。




いきなりこれ。石棺の蓋、オンパレード。結構強烈です。
だって、なんといっても石棺、つまり、棺ですから。誰かがその中で永遠の眠りについていたものが、今は美術品として展示されちゃっているんですから。ローマのものも、中世のものも、石棺=美術品、みたいになって、博物館としては当たり前の展示になっていますけれど、墓なんですからねぇ、本来は。という意味で、やっぱり宗教的にはとてもプリミティブなわたしなんかには、混乱をもたらすほど強烈だったりはするんです。特に、こうやって無造作にずらずら並べられちゃうと、すいませんねぇ、みたいな妙にへりくだった気持ちになります。

博物館なだけに、入場料を払う場所がありますが、そこの人は、これまた強烈にフランス人で、絶対に英語なんて知りませんのよ、みたいな上品なオバサンだったのですが、だめもとで英語で話しかけたところ、意外や意外、すごく辛そうだったのですが、英語で対応してくれました。
何を聞いたかというと、この石棺の蓋の形。逆三角形が珍しいように思ったのです。

これは、石とスペースを節約するためでもあったし、実際に人を収める形として合理的だったから、と一生懸命説明してくれました。
なんだ、フランス人、やろうと思えばできるんじゃん、と思いつつ、なかなかそれ以上突っ込んだ話は無理だったんですけどね。
でも、なんていうか、何でだろうと思って、尋ねたら一応答えが返ってくるというのは楽しいですよ。やっぱりフランス語やらなきゃ、です。

この石棺群、浮き彫り装飾が施されていますが、ロンゴバルドにも通じる、素朴ながら魅力的な意匠がたくさん。6/7世紀頃のものです。







初期キリスト教の時代、という共通項から、ロンゴバルドにも通じる何かがあるというのかな。プリミティブな原始宗教的なものと、キリスト教への過渡期にある混沌、文様の混合、等々。好きでした。

さて、とはいいながら、この洗礼堂を訪ねる最も大きな目的は、やはりロマネスクなわけでありまして、その時代の遺構としては、やはりこちら。




ロマネスク時代に付け足された建物上部の壁部分を覆う、フレスコ画。
これはもう、なかなかにすごいものでして、上見っぱなしで、首が疲れること必至の場所です。










なんていうのか、風の流れが感じられるような動きを全面に押し出したような作風で、損場でどう思ったかはさておき、こうやってじっくりと写真を見ていると、ウンブリアの田舎にある聖堂のフレスコ画を思い出したりします(フェレンティッロのサン・ピエトロ・イン・ヴァッレ)。どうでしょうか。

ポワティエ、期待していたとはいえ、それ以上。ひとつの町で、これだけたくさんのすごいものを持っているというのは、そうあることではありません。いやはや。歩くもんです。

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  1. 2013/07/27(土) 05:57:27|
  2. ポワトー・シャランテ・ロマネスク
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4世紀からの歴史の集積、サン・ジャン洗礼堂

ポワトー/シャランテ、50

昨日の記事で、大嘘してしまいました。
教会内の彩色は、どうやら19世紀になされたものらしいです。
昨日、現地で購入したフランス語の本をパラパラしていたら、多分そういうことが書かれていました。記事を書く前に読め、というところですが、まぁフランスに関しては完全な門外漢なので、許してくださいね~。

さて、次に訪ねたのは、ポワティエの町の端っこにあるサン・ジャン洗礼堂Le Baptistere Sait-Jeanです。




町の中心部は、観光客も含めて人であふれかえるようでしたが、ちょっと町外れに来たら、ほとんど誰もいない状態です。
洗礼堂は、今は博物館のようになっており、お隣にはサント・クロワ博物館Musee St Croixがあります。理由は覚えていませんが、休館していて、残念ながら、この博物館を訪ねることはかないませんでした。

この洗礼堂の歴史は大変古いです。そもそもの建物は、なんと4世紀、初期キリスト教の時代のもので、下の図では、黒い線が、その当時の壁となります。




今の姿は、一番右側で、外壁のほとんどは10/11世紀のものとなり、規模も若干縮小しています。創建時の造作としては、一部の壁と、洗礼の桶の後。当時は全身浸かるタイプだったので、大きなもので、フランス語では「プール」という表現になっていますね。中央にある八角形の図がそれです。

今更ですが、現地の立て看板の説明によれば、この4世紀のプールを含む洗礼堂は、フランス革命で国に接収されて、危うく破壊されるところが有志のおかげで助かったとかそういうことらしいです。実はつい最近訪ねたルシヨンの多くの場所で、フランス革命時に破壊されそうになったり、実際に売却や破壊の憂き目にあった場所がたくさんあり、フランス革命ってなんだったんだろう、とほとんど知らないフランスの近代史が気になっています。

これが今ある建物の入り口側。かなり新しくなっていますね。上の図で見ると、北西に向いていることになります。初期キリスト教時代あたりは、まだ教会の方向は結構ばらばらなんですよね。




そしてこちらが後陣側。




本来はまっすぐな壁で、背も低かったようですが、6世紀頃に半円の後陣(といっても、今ある外壁は、明らかに後代の再建のようですが)、そして屋根が高くされた分、装飾も施されたようです。
上は半分以上、ロマネスク時代の付け足しのようです。




修復もされていますが、アーチや、その中にある浮き彫り、小さな付け柱やその柱頭等、いかにもプリミティブな装飾は、初期のロマネスクのもののようです。






続きます。

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  1. 2013/07/26(金) 05:30:47|
  2. ポワトー・シャランテ・ロマネスク
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どこから来たのか、色彩の渦巻き(ノートル・ダム・ラ・グラン教会)

ポワトー/シャランテ、49
ファサードを堪能したあと、いよいよ入場です。




おお、ここはまた、典型的なスタイルで、全面的に彩色文様。全体に色あせているので、薄ぼんやりとした明るさの中では、古色蒼然として、派手派手な印象ではありませんが、創建当時、こういう状態だったとしたら、きらびやかで、すごいものだったでしょうねぇ。

中央身廊から後陣を望む様子。




派手な意匠なのに、荘厳でもあります。
後陣部分は、ここもフランスらしい周回廊となっています。
周回廊部分の柱には、色彩文様がありません。




他の教会の例から言っても、本来はここもびっしりと色で覆われていたのでしょうねぇ。柱頭も同様です。

天井には12世紀のフレスコ画がうっすらと残っています。




アーモンドの中で祝福するキリストのフィギュアですが、かなり傷んでしまっているのが残念。キリストの両脇に腰をかけた人々の姿は、十二使徒でしょうか。




中央部に、小ぶりな木像の聖母子。とっても愛らしいです。雰囲気から、ちょっと時代の下った13世紀頃の作品ではないかと思いました。




柱頭も、普通に彩色のないものから、往時の姿を髣髴とさせる彩色ものまで、いろいろ。






おなじみのアーモンドの中のキリストと、それを支える天使。かわいらしい姿です。

それにしても、このポワトー・シャランテ一帯に広がる、激しい彩色ロマネスクは、どこからきたんでしょう。フランスでは他の場所でも、柱頭彫刻への彩色は時々見られますが、イタリアでは、ないように思います。また、柱まで彩色文様で多い尽くすというのは、ちょっとロマネスクでは、他にはないのでは。
時代を考えると、彩色に必要な絵の具も、高価なものではなかったか、と考えると、スポンサーの財力を誇示するとかそういう意味もあったのかしら。お金持ちや王族などの家はともかくとして、庶民がそういう方向で家屋を飾り立てるということはできない時代に置いて、多分、教会はきらびやかなものを、身分に関係なく身近に見られる唯一の場所だっただけに、今では、「こんなに塗りたくっちゃって…」とか、つい思ってしまう姿も、当時の庶民にしてみれば、天国とはかくや、みたいな感じがあったのかしらん。
考えたら、黄金のモザイクよりは、金も手間もかかってないですね。もしかして、色彩が文字通りきらきら輝くモザイク文化からの系譜、というのもあるのかしらん。

やはり常とは違うロマネスクに出会うのは楽しいことです。フランス見る前と後では、視野が広がり、視点も増えたような気がします。

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  1. 2013/07/25(木) 05:03:48|
  2. ポワトー・シャランテ・ロマネスク
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変なものたち満載、ノートル・ダム・ラ・グラン教会(ポワティエ)

ポワトー/シャランテ、48
ファサード装飾の続きです。
ファサードの両脇に建っている三角屋根もまた、ぎっちりと彫り物でよろわれている状態。




下から肉眼では絶対に見えない細部まで、びっくりするくらいに細かく彫り物が施されています。こういうのはどこでもそうですが、見えないところまで凝る、すごいことです。そういう仕事がまとまることで、異常な装飾世界が成り立つんでしょうけれども…。見えないような部分は、マエストロでもっているような石工工房の下っ端とかが、やっと仕事をさせてもらえる~、みたいな場所だったかも知れませんねぇ。そういうどうでもいいことを勝手に想像していると、また別の楽しさを感じます。

このあたりを見ると、かなりゴシック風です。動物や人間の顔がやけにシャープで、ガーゴイルになる日も近い。




とはいえ、とにかくスペースにはめ込む状態なのが、まだロマネスク風ってことなのかな。

いくつかの彫り物は、相当磨耗してしまっています。




壊れたとかはがれたとかではなく、自然に摩滅磨耗している感じなので、自然にさらさらたままだと、こういう風になってしまうということなのでしょうか。とすると、やはりかなり定期的に、お掃除修復がなされてきているのでしょうね。実際、以前の写真を見ると、ファサード全体かなり真っ黒なんですよね。この教会の周囲は、今は広場スペースも広く取ってあって、車の交通は限定的になっていると思われますが、おそらく以前は、かなり近くで、もっともっと車が走っていたりして、排気ガスの影響等も相当あったのではないかと想像します。
そういえば、ミラノのドゥオモも、以前は常に真っ黒、という感じでしたが、車規制と、継続的なお掃除で、最近は、ほとんどきれいな白い状態が保たれていますからねぇ。その代わり、常にどこかを覆ってお掃除していますけれども。

ちょっと面白くて珍しいようなフィギュアをピックアップしてみます。












宝探し的な面白さはありますねぇ。ただ、本当に細かいので、双眼鏡でもないと、実際には探せないんですけど。
見ても見ても飽きないけれど、首が疲れちゃうし、時間の制約もあるので、そろそろ入場します。
期待していたのは、このファサードだけだったのですが、内部もポワトー・ロマネスクの典型で、予想外に面白かったのですよ。
次回。

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  1. 2013/07/24(水) 05:13:36|
  2. ポワトー・シャランテ・ロマネスク
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装飾ぎっちぎち、ノートル・ダム・ラ・グラン教会(ポワティエ)

ポワトー/シャランテ、47




この教会のファサードを、初めて本で見たときは度肝を抜かれました。ロマネスクのイメージとかけ離れたごたごた状態。これ、ありなんだ~!と。
そしてまた、激しい装飾の割りに、全体がこじんまりしている印象だったのも、とても不思議でした。
そんなわけで、初めて買ったロマネスク関係の大分の書籍に出てくる写真の教会の、どこよりも印象が強くて、いつか是非訪ねてみたいと思ったものでした。
それが実現したのですから、ある意味感無量…。

一応ここを目指して歩いてきて、かなり開けた広場に、ぽっつりとたたずんでいる姿には、やっぱりびっくりしました。旧市街の真ん中なので、そのたたずまいは、おそらく中世の時代から、さほど変わっていないのではないかと思われますが、やっぱりなんとも違和感があるっていうのか。このあたりのロマネスク全体が装飾的ではありますが、とにかくこのノートル・ダムほど、すべてのスペースに、もう嫌って言うくらいに装飾を盛り込んだファサードは、おそらくないですからねぇ。一体なぜここまでやってしまうことになったんでしょう。

一番天辺。




ここは比較的すっきり。やはり中央に置かれたアーモンドのキリストを際立たせるためでしょうか。または、石工が力尽きたのか…。
それにしても巨大なアーモンドで、こんなの、めったにないですね。キリスト始め、彫像ほとんどから頭部がなくなっているのは寂しい限りです。




普通タンパンなどに置かれた小さいアーモンドのキリストだと、足が爪先立っている感じが多いように思いますが、このキリストは、地面にしっかりと立っている足です。かなり傷んでいますが、周囲には、四福音書家のシンボル、植物モチーフの帯などは、比較的きれいに残っています。

真ん中の壇の左側。




そして右側。




各アーチの中に、人物フィギュアが一体ずつ。すごい数です。それにしても、見事に頭部がない。これはやっぱり、頭部だけもって行かれちゃったりしているのですかね。朽ち果てたどこぞのお屋敷の庭なんかに、人知れず、転がっていたりするのかもしれないですね。上段の人たち(一部が十二使徒)は立ち姿で、下段の人たち(十二使徒)は座っています。鍵を持っているピエトロくらいしかわからないな~。あれ、鍵はピエトロでよかったかな。
どのアーチも、それを支える小円柱の柱頭も、聖人や預言者たちの背後にも、とにかく細かに様々な意匠が施されているのには、ただびっくりするばかり。

そして、一番下、メインの扉周囲の様子。




このあたりの高さだと、何とか見えたりしますが、他は肉眼では余りよく見えないのが残念です。
アダムとイブとか、




これは受胎告知でしょうか。




ところどころで、既にゴシック・テイストのあるフィギュアも結構見受けられる気がしました。
改めて見直してみると、やっぱり面白いので、じっくり続けます。
この旅では、ほとんど資料が入手できなかったので、詳細は調べないとわからないのが残念。やっぱり紙の書籍で、じっくりと読んだりするのが本来的には好きなんですよねぇ。

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  1. 2013/07/23(火) 05:49:31|
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