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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

石工さんの動物こだわり(スイヤックその4―46ロット)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その90

スイヤックSouillacのサント・マリー修道院教会Eglise Saint-Marie、続きです。

他の場所を見ます。

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以前の記事に書きましたけど、この教会、広大です。がらんとした空洞感、すごかったです。
もともと修道院があったということなので、おそらく創建時には、実際にこれだけの広さが必要とされたのでしょうけれど、今となっては、こういった規模の教会というのは、ちょっと寂しさがあるというか…。

私の住むミラノには、ゴシック建築で有名なドゥオモDuomoがあります。人口の多いミラノの中心部ですから、集客能力は抜群なのですが、それでもおそらく、信者席が満杯になるのは、クリスマスとかイースターとか、その他イベント的なミサの時くらいで、通常のミサで満杯、ということはないと思います。とはいっても、腐っても鯛、とか言っちゃなんですが、ミラノのドゥオモですから、ミサが数人ということはないと思うのですけれど…。

先日、散歩がてら、久しぶりにサンタンブロージョ教会を訪ねました。内部を見学していると、内陣最寄りの席に、数人が固まって座っており、さらにちらほらとやってくる人がいたので、ミサが始まるものと、焦りだしたところ、個人的なお葬式だったんです。
結婚式もそうですが、個人的な集まりに関しては、別に他人でも追い出されることはないので、邪魔にならないように見学を続行しましたが、その時も、比較的大きなサンタンブロージョで、15人くらいがひとところに固まっている形のミサ、寂しいような気持ちになりました。

一方で、田舎の町村の教会というのは、人口に応じた規模になっていることが多くて、今でもミサの度に、しっかり満員、という教会は少なくないですね。
そういうのを見るにつけ、カテドラルという存在が、如何に教会宗教の象徴であり、権力や財力の象徴であったか、などと、余計なことを考えるわけです。

このスイヤックという町は、これだけの教会を持つに至った修道院がその基礎を作ったということになるのでしょうかね。いわゆる門前町的な。創建は10世紀とあるようですが、もちろんその当時は、小さな建物だったのでしょうが、修道院の強大化に伴い、という歴史ではないかと思います。今では、いたって普通の中堅都市であり、イメージとして、この教会の立ち位置は、宗教的なよりどころというよりも、歴史的建造物、という感じがしました。とにかく、ガラン、というのが、苦手。まぁ、密にならない、ということで、Covid時代にはうってつけですが、笑。

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入った時は、がらんとした様子、天井高で、なんだかもう、と嫌気に襲われたのですが、そうはいっても、ちゃんと見るべきものはあるんです。当たり前ですが。
ただ、暗いのと、高い場所にあるので、良い写真がほとんどありませんでした。ボケボケの写真の中で、何とかみられるやつだけ、アップしておきます。

ダニエルさんですね。かろうじて一枚、割とクリアなのがありました。

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ライオンが、写実、というか、かわいくない分、ダニエルさんの飼いならしてる感に納得します。

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この鳥尽くしのごちゃごちゃ感、扉口の柱のこれでもか状態に通じるものがありますね。
また脱線しちゃいますが、つい数日前、野生の王国的なシーンを我が家のバルコニーから目撃してしまって、「鳥怖い」状態です。我が家のある建物の屋根の雨どいみたいなところに、最近ではツバメが来始めておりますが、この時期になると年間を通して近所に生息している、鳩とクロウタ鳥も、巣を作るようなんです。
で、数年前は、クロウタ鳥の惨劇を一部目にしたのですが、今回は鳩。最初、雨樋のあたりでギャースカうるさい声がするので、見上げたところ、羽がバタバタしており、仲間らしいやつも飛んできたので、カラスが誰かのヒナを襲っているな、とわかりました。
ついついドキュメンタリーを見ている感覚で、ずっと上を見ていたところ、一段落した様子で、静かになったものの、カラスは飛び去らないし、首をひねっていたら、いきなり、ひゅーん、という感じで、何かが道に落とされて、そのあとをカラスがすごい勢いで追いかけ、道に降りるじゃないですか!なんと、大人の鳩が獲物だったのか、カラスが路上でつついているのは大人の鳩…。過酷な野生の現実で、固まってしまいました。
カラス怖い…。

脱線しすぎだろ!失礼しました。

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これも過酷な地獄図でしょうか
なんか有翼のライオン、マルコの悪役版みたいなモンスターですね。実際はスフィンクス的なあれでしょうか。

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これは受胎告知ですね。
なんか、扉口のアブラハムと動物の対比でもそういえばそうですが、ここの石工さんって、動物への執拗な彫りに比べて、ヒトについては、すっごくすっきりくっきりミニマリストな様子があり、違いが激しいと思いませんか。

先ほどの有翼の怪物に手をガジガジされている人たちの正面図がありました。

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やはり人についてはすっきりしていると思います。動物に並々ならぬこだわりがあったのかしら。

柱頭などの彫り物の他にも、フレスコ画の名残もあります。

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正確ね年代は不明ですが、結構古そうですよね。かつては、全面がフレスコ画でおおわれていたようです。

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金があったんですね、やはり。
「今は昔」感が強いたたずまいではありますが、お金をかけたおかげで、美術史上重要な作品が残り、私たちを楽しませてくれている、ということで、過去の教会関係者をありがたく思うとともに、形を色々変えても、最重要な作品が残されたことには、感謝の気持ちです。

美術から脱線してばかりの項になってしまいましたが、好みじゃないの何のと言いながら、やはり見だすと面白いということが分かり、改めて見直したり調べたり読んだりというチャンスになるブログの意義を実感しました。まさに自分のためだわ。

ということで、やっと次に進みます。

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  1. 2021/05/08(土) 18:27:04|
  2. ミディ・ピレネー・ロマネスク 31-81-82-46-12-48
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小泉画伯のドラゴン(スイヤックその3―46ロット)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その89

スイヤックSouillacのサント・マリー修道院教会Eglise Saint-Marie、続きです。
細切れになっちゃって、いやなんですけど、なかなか集中力が持たなくて~。前回みたいに、写真も少ないし、大したこと書かなくても、フランス語を翻訳しながらだと、結構時間かかっちゃうんですよね。しょせん、自己満足のためにやってるから、コマ切れで読みにくくても、しょせん自分の問題なんで、ま、いっか、という姿勢でやっております、ペコリ。

また、同じ写真の使い回しで失礼ですが、今回は、ここ。

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多分、左側の方の写真もあるんじゃないかと思いつつ、始めて見ないと分からないのが本当のところです、笑。
とか言いつつ、いきなりあった!

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これ、左の上の方にあるやつ。
これは、おそらくもともとは右側同様に、もっと長い柱の浮彫だったようですが、教会内部に移されたとき、これだけだった、ということになるのかな。
ライオンと雄羊。
すっごくこんがらがって見えるんだけど、確かに姿勢がすっごくこんがらがっているけど、こうして近くから見たら、単に二頭のライオンが、雄羊をがぶがぶしている図なんですね。
これまた、モワサックのとめちゃくちゃ似てる、ということになっているので、後日を楽しみにしましょう。

それにしても、デフォルメが独特です。特にライオンの身体つきと脚のつき方がすっごく変です。手前のはまだしも、後ろ側のは、にょ~ん、とほとんどろくろ首状態で首が伸びているうえに、前脚は若干退化しているというのか、恐竜のTレックス状態っていうんでしょうか。後ろ足でたつ前提で縮まっている状態ですよね。そんでもって、猫がのびをしているくらいの勢いで、身体が伸び切っています。
普通なら、植物みたいになっている装飾的なおしっぽなどは、かわゆし、と思わされるもんなんですが、この方たちのは、まるで出来損ないのソーセージのようにぐにゅぐにゅしていて、そこまでしてからませなくても、という見ていて辛い図像になっています。
そういうせいもあるのか、可愛さのかけらもなく、見れば見るほど、辛い、怖い、そういう図像ですね。雄羊の苦悩、迫ってくるみたいな。

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角度変えると、ライオンというより、ほぼドラゴンですよね。歯並びもすごいし、これは、日本のお寺の襖絵とか天井画に描かれる竜よりです、かなり。ということは、ちょっとオリエンタル入っているということでもあるのかしらん。
ちなみに、私が髣髴とした竜は、確か小泉さんという日本画家が京都の寺の天井に描かれたものですが、確認のために検索したら、鎌倉のお寺にもあるんですね!いつか見に行きたいなぁ。

いずれにしても、このライオンは、よく扉前に置かれたなるテックスを支えながら、ヒトをガジガジしているライオン度と同義のようですが、そういうライオンって、ここまで怖くないのがほとんど…。本来扉のわきに置かれていたはずだから、ここを通り抜ける信者たちは、これを、どう思って眺めていたことか。ちゃんとしないと地獄に落ちるという教育的効果があったか、子供さんなど、ライオンが怖いから、あそこは通りたくない、と思うこともあったのでは、など考えちゃいますな。

一方、右の方は。

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もう、何が何やら状態で、絡まっている様子です。
こういう角度から見ると、もっとすごいかも。

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小さいものがごちゃごちゃしている様子に対する恐怖感を、先端恐怖みたいな風に感じる人がいるようですけれど、そういう人、すっごく苦手なやつですよね。
そのごちゃごちゃの中に、実はちゃんと色々入っていて、確かこれは扉に向かった方ではなかったかと思います。

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アブラハムの犠牲というやつ。
他の場面の上に乗っかるようにして、前面にフューチャーされています。左側で目をつむっているのがイサクで、右側で、左側でその髪をつかみ、石を持った右手を振り上げて、今にも殺そうとしているのが、アブラハム。
写真が下手で、肝心な右手が、切れそうになっていますが、かなり迫真の場面ですねぇ。

これまた写真が、半端なところで切れていて残念ですが、その、迫真の今にも、やばい、お願い、というところに、上から、天使が駆け付ける、いや、飛びつける?イサクの身代わりとなる雄羊を抱えて、飛び降りてきています。

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ちゃんと物語が、縦長絵巻として、描かれていたのですね。それも、縦長の意味があるような場面をうまい具合にはめ込んだものですよね。

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他の面では、様々な動物が、ヒトをガジガジしたり、動物同士で色々戦っていたり、そちらはもう、よくぞここまで詰め込んだな、という状態ですね。

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これなんかは、ボッシュを彷彿としてしまいました。
ボッシュは、15世紀の人ですが、あの方、実に不思議な怪獣幻獣をたくさん描かれていて、かなり好きです。だから、マドリッドはそれほど好きじゃないけれども、ボッシュの絵があるから、いつでも再訪したいと思うんですが、こういうのを見ると、ボッシュは、ロマネスクの教会を訪ねたことがあるのではなかろうか、と思ってしまいますね。

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ここの彫りは、ヒトも動物も、みんな深刻で本気で、なんだか疲れてしまいます。彫りの細かさなど見ても、かなり技術があるし、それなりの道具も持ち合わせている、相当レベルの高い石工さんなんだとは思いますが、好みとしては、せめて、もうちょっとかわいさがあれば、という感じでしょうか。

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もう一回だけ、続きます。息切れです。

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  1. 2021/05/05(水) 04:58:53|
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カメラ目線的な?(スイヤックその2―46ロット)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その88

スイヤックSouillacのサント・マリー修道院教会Eglise Saint-Marie、続きです。

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こんな鳥観図は、ドローンでもない限り、決して見ることはできないわけで、これはパンフレットとかから拝借した写真ですが、美しいですね。グレーの、ドームを覆う部分でしょうか。何とも言えず愛らしいし、きっちりとした円の緻密さといい、うっとりします。トルコだったか、宗教的なダンスで、クルクルと回ると僧服の裾が円形になっている、そういうやつみたいな円形並び。

さて、こちらでは、またちまちまと、内部に置かれた緻密な彫り物を見ていきましょう。
まずは、ここの両脇の、大き目な人物フィギュアですかね。

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右側が預言者イザヤ、左は、やはり預言者でホセアとなるんでしょうか。預言者とか聖人の名前は、イタリア語が一番わかりやすく、英語とか、ましてや日本における通称が分かりにくくて、困ります。

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このイザヤのたたずまいって、多分すっごく有名で、ロマネスクやったら、絶対どこかで写真見てる、ってやつだと思います。でも、それが、ここなのかモワサックなのか、よくわかってなかったと思いますけれども。
実際、モワサックの同様の彫刻と、作者は同じではないか、という説が濃厚のようですね。モワサックは、この後回りますので、楽しみにしててくださいね。
そういった経緯から、このソリヤック、この時の旅の行程としては、ちょっと外れていて面倒だったのですが、ぜひ、見比べてください、というフランス在住の友人に強く勧められて、来た次第なんです。

大きいです。縦が1.76メートルで横が0.86メートルということですから、ほぼ等身大と言ってよさそうです。
でも、正直、ここの全体って、この人よりも他の部分のインパクトが強すぎて、この人の印象は、あまりないんですよね。
今改めて見ると、それにしても、スタイルいいなぁ、と感心します。モデル体型ってやつでしょう、完全に。ほぼ八頭身で、適度に筋肉もついてる風ですよ。

そんでもって、感じたのが、この、衣のふんわり感ですかね。
そして、絹的な、ふんわりしつつも体にまとわりつく様子の中で、実はしっかりとすごい装飾が施されているこの衣。

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これ、身体の左側の方で、たっぷりした衣がふわっと垂れ下がっているものと思いますが、すごい縁取り刺繍らしきものがあります。決してふわふわの羽衣的な衣じゃなさそうですよね。明らかに金糸銀糸、ちょっとビザンチン入っている風だったりするのかも。
あ、テオさんもビザンチン起源とか、なんかそういうインスピレーションがあるかも、というのはうがちすぎですかね。

それから、手の位置も、なるほどと思いました。
スペースに合わせるロマネスクの面目躍如とでも言いますか、本当にスペースに合わせて図案が決まったんだな、ということが分かるじゃないですか。っていうか、ここまでスペースにこだわったポーズって、あまりないんじゃ…。

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柱につかまっているポーズですもんね。ちょっとカッコつけすぎて、おっと、とよろけているような…。冷静に見ると、相当変なポーズなんじゃないかとも思います。そんな変なポーズしながら、ちょっと問いかけるように、どうかな、このポーズ、的な視線。なんか「聖お兄さん」入ってるな~笑。
なんといっても、髪の毛はかなりドレッドですしねぇ。

そして、よく見たら、首元、デコルテの部分も、すごい装飾ですね!これはたまげたな。写真じゃなきゃ、およそ気が付けないディテールです。キラキラ感まで出ていて、これは刺繍のみならず、宝石が縫い付けてあるやつですね。超豪華なお衣装ということです。さすが預言者。

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イザヤは、旧約聖書に出てくる預言者としては、四大預言者の一人とされているようで、彼以外は、エレミヤ、エゼキエル、ダニエルとなります。それだけ偉大な預言者の一人であり、特別扱いされるのもよくわかります。
そういえば、似た感じの彫り物をイタリアで見たな、と思いましたが、それはエレミヤだったように思います。
なんとなく、それなら、イザヤの並びには、その四大預言者の他一人を置いてもよさそうな気がしますが、並んでいるのは、ホセア。

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不勉強で知らないのですが、イザヤとホセア、コンビで活躍みたいなものがあるのでしょうか。よく教会で、聖コズマとダミアーニというのがあるんですが、由来は今のところ調べたことないですが、いつだってコズマとダミアーニなんですよね。ああいう関係があるとか?
ホセアは、イザヤよりも時代が古いみたいだから、そういうこともなさそうですが、どうでしょうか。

さて、イザヤの像に比べると、このホセアの方は、ほとんど工夫の見られない直立の像で、彫り物としての面白さも、衣装やスタイルを観察する楽しさも、ほとんどない感じです。というわけで、独立写真は、この一枚しか撮っていませんでした。

衣装も、なんかドレープはいっているけれど、平面的で、ほとんど包帯まいてる状態ですよね。これ、絶対作者違いますよね。
あ、場所も変えられちゃっているわけだから、もしかすると、全然違う場所にあったものが、たまたまイザヤと対のように置かれちゃった可能性もあります。
しかし、お対のホセアがこれじゃ、イザヤの見せポーズ、恥ずかしくなっちゃいますよね。

おなかがすいたので、一旦切ります。早めに続きをやりたいと思います。

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  1. 2021/05/03(月) 02:23:49|
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知らない聖人に会いました(スイヤックその1―46ロット)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その87

というわけで、カンタルにはしばしのお別れとなります。
この日の最後は、宿泊地にある教会となりますが、ここは、ロマネスク的にも、そして、この旅的にも、ハイライトの一つでした。
というのも、オーヴェルニュにお住まいで、私の別荘として、何度かお宅にもお邪魔させてもらっている友人たちが、私の予定に合わせて、ご自分たちの旅を組み、この日、同じホテルに投宿して旧交を温めることとなっていたからです。
そのため、それほど急いで移動する必要もなかったのですが、気持ちがはやって、結構早めにカンタルを辞去してしまったくらい、盛り上がっていました。

しかし!
おそらく、早すぎるかな、という時間に、カンタルを切り上げたのは正解だったと思います。正確に、どの道を行ったかは不明ですが、遠かった!

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それもかなりの山道で、行けども行けども…という感じで、おそらく出発地のレイラック、いや、レイアックというんですね、その村から、2時間くらい要したと思います。

そう、友人たちとのランデブーは、ロマネスク的にも大変重要な教会があるスイヤックです。

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スイヤックSouillacのサント・マリー修道院教会Eglise Saint-Marieです(毎日8時から19時)。

投宿して、何はともあれ、ホテルから徒歩数分の教会に駆け付けて、正直、目が点でした。
というのも、とても有名な教会なので、訪問はマストだし、見るべきものの書き出しもしていなかったし、事前にあまりチェックをしていなかったんです。さほど著名でない場合は、やはり行く価値があるかどうか、ある程度把握しないと行程が立ちませんから、自分の好み中心に、見るべきもののチェックは欠かせないわけですが、絶対に行く場所については、行けば分かる的なイメージもありますし、特にここは、フランス在住の方とご一緒するわけですから、ほぼ真っ白。

で、まさか、これほどの威容とは、まったく想像していなかったわけなんです。

アクセスにもよると思うんですが、私は、この後陣側からだったんですが、この後、かなり広大な広場に面していて、広場にアクセスを同時に、バーッと視界に入るんですね。

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なんて言ったらいいんだろう。

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このごちゃごちゃした街並みの中で、この教会裏側の広場の大きさ、ちょっと異常じゃないですか。そういう感じ。
要は、田舎の小さい規模の教会が好きなので、こういうのって、ただそれだけでひるんじゃうところがあり、そのうえ、この時は、カンタルの山間部をうろうろしていた直後だったために、かなりついていけない感覚に突き落とされたみたいです。
トゥールーズとかから直行してきていれば、全然受け入れちゃうんでしょうけれど、それまでとの落差がすごかった…。

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中入っても、どーん、という壮大な様子で、え~、これは困ったな、と額に汗する状態で、固まっている、って、分かってもらえるでしょうか。
何を見るんだっけ、ここ?と旅のメモを出しても、前述の通り、何も記していないので、ほぼパニック、笑。

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夢遊病者のように、後陣の方に近付いても、なんだか遠くにそれらしい、好物的な柱頭も見えるけれど、修復感も激しいし、でかいし、途方に暮れる感じ。写真も、今見ても、途方に暮れている感、かなりありますよね。
で、どうしようかな、一旦ホテルに戻って出直すか、と、正面側を振り返って、あ、そうだった、これだったんだ、と違う意味でパニックに陥った感じです。

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なんだかもうすごいです、ここの浮彫、というより彫刻。
好みからいえば、ちょっとやりすぎだろう、というのが正直なところですけれど、とにかくすごくて、これは、やはりこの時代における最重要な作品の一つに違いないことは、もう誰が見ても明らかです。
どっから始めようかな。っていうか、これはもう説明とか、どこでも見つかると思うので、あまり書きません。

まずは、正面上にあるこれかな。
これは、どうやら本来はファサードの扉周りにあったものが、内部に移されたということのようですね。保存のためなんでしょうが、ちょっと変な感じだし、薄暗い場所で、外にあるのとは趣が全然違うと思います。

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説明には、修道僧Theophileの誘惑とあります。
そもそも、Theophile、イタリア語だとテオフィロとなるようですが、そんな聖人って、初めて聞く気がしますね。
中世辞典で引いたところ、三人の人物が掲載されていて、一人は9世紀のビザンチンの王様、一人は12世紀の技術者、残る一人は、4世紀のビザンチン法学者。明らかにどれも違うようですが、名前の起源は、どうやらビザンチンということになりそうですね。ということは、あのあたり出身の聖人ということ。でも、聖人辞典(イタリアの書籍)には出ていませんでした。イタリアでは、あまり有名ではないということです。

ということで、聖人Theophileでググったところ、さすがグーグル様。

「2世紀半ば、サン・ピエトロから数えて、7代目のアンティオキア司教。理論者であり、ユダヤ教やそのほか異教の人々の改宗を進める力のある文化人だった」みたいな説明を見つけましたが、生涯、そのあたりにいたようで、フランスなどに足を踏み入れた様子はないのですが、この信仰はどこから来ているものなのでしょうね。いや、同名の他の聖人である可能性もゼロではないですが…、いや、ないだろうなぁ。

左にいるのが、修道院長(Benoit?とされています)。遠目だと、顔がつぶれているように見えますが、ちゃんと残っていますね。そして、立派な司教の杖を持っています。確か、このクルクルってなっている部分を自分に向けているのと、外に向けているのでは、意味が違ったんだったと記憶しますが、現役とかそうでないとかだったかな。忘れた…。

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そして右がサン・ピエール、つまりピエトロさんですね。遠いと分かりにくいですが、確かに立派なカギを持っています。

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上の方には、天使と、そして聖母がいると。これかな。

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この二人の天使、すっごくかわいいですね。手が妙に細かく彫られているのも、こだわりが感じられます。聖母は、なんか、髭面の人に見えてしまったんですが、なんでだろう。陰影のせいですかね。
いずれにしても、これは、現場では全く見えない状態です。

そして、その下にあるのが、どうやら、この聖人の物語ということになるようです。三つの場面が描かれていると。
1.悪魔(悪魔の様子が、モワサックのものと同様、とあります。この後、行きますので、楽しみですね)が、彼に契約を見せる。

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2.Theophileは、自分の手を、悪魔のそれに置く。これは約束を意味するポーズ。その上には、彼が行こうとしている修道院の図が置かれている。

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悪魔が、なんかエジプトの動物神みたいな様子で、足のすじすじも気になります。これは筋肉なのか、はたまた、アフリカの民族などのボディ・ペインティングにも見えますが、全体にまがまがしい雰囲気を、これでもか状態で醸し出したかった結果何ですかね。

3.Theophileが、夢で、契約を差し出す天使に伴われた聖母を見る。つまり、それが、上にある図ということですかね。

なんだか、こういうものの意味というのは、分かったようなわからないような、明確な説明が欲しいですが、私の読解力では、以上が限界です。要は、Theophileさんが、聖母に救われたということになるのかな。

詳細は割愛のつもりでしたが、ついつい。癖みたいなもんですな、半端なフランス語読解。
続きます。

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実践美術史(レイラック―15カンタル)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その86

前回同様、時間の余裕があったから、立ち寄ってみた村です。

実は、ここが、今回訪ねたカンタル地域最後の村で、この後は、他の地域に移動というスケジュールだったのですが、まぁ、さしたる感慨もなく、笑。とはいえ、カンタルは、結構アクセスしにくい場所ではありますので、このほんの数年後に、再び訪ねることができるとは、この時は思いもよらず、でしたね~。

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レイラックReilhacのサン・ロラン教会Eglise Saint-Laurentです。

言っちゃなんですが、見るからに多くを期待できそうな様子ですよね。実際、事前にピックアップした時も、とりあえず引っかかったからピックアップはするけど、「別に行かなくてもいい」自分なりのマークでした。
その上、扉は固く閉ざされておりました。

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小さな村ですが、立派な市役所があります。
上の写真、右側が、さらに愛想のない教会の西壁で、その左側のクリーム色の建物が市役所。
これほど至近ですから、おそらく教会のカギは、市役所が管理していると思いますが、村の教会にありがちで、市役所がいつも開いているとは限りません。この村の市役所は、日曜と月曜はお休みで、この日は、折あしく月曜日でしたので、何の希望もなし。
ちなみに、火曜と金曜は昼休みを挟んで午前(8時半から12時)も午後(13時半から17時半)も開いていますが、それ以外は朝だけです。月曜日休みというのは、どうかと思いますが、それ以外は、結構勤勉ですね。

いずれにしても、訪ねた日は、クローズ決定。と言っても、中もかなり新しくなっていて、特に見るべきものはないと踏んだからこそ、飛ばしても問題なし、というマークをしていたはずなので、ま、ここは酸っぱい葡萄理論で。

でもね、幸い、外側は、ちょっと楽しかったんですよ。

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主に、この、これまた愛想のない後陣の方ですけどね。分かりますでしょうか。

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軒下に、何やら馬蹄形みたいな浅浮彫が施された石が並んでいるのが分かるでしょうか。
この教会、建物全体、ほとんど全部再建された様子があるんですけれど、軒、というか、屋根の木は相当古そうだし、その直下の部分だけは、どうやらオリジナルらしいのですね。
それにしても、この馬蹄形模様は、ちょっと珍しいです。他の場所にあった石を、無理やりはめ込んだ可能性もあります。
で、たどっていくと、いきなり、こんなもんが。

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これは軒持ち送りなんでしょうけれど、その体裁が半端に残されている感じです。

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ほらね。本当は上に、構造物があるはずですよね。軒持ち送りという構造から独立して、メインの彫り物だけが残っている様子です。

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これなど見ると、やはり軒下に置かれた、フリーズ系の装飾が施された石は、他にあったもので、建物再建時に、やはり往時の雰囲気を残そうぜ、となって、無理やりはめ込んで、軒持ち送りについても、壊れちゃったか壊されちゃったかした構造から彫りだけを無理やりくっつけたように見えます。
いや、これ、私の勝手な想像なんで、真相は知りませんし、調べてもいません。

それにしても、この、追い詰められて開き直ったみたいな人のフィギュア、かわいくないですか。

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ピクトグラムを創造した人も、こういう中世美術を見ていたかもしれないなぁ、とか、ふと思いました。
飛躍しすぎ?いやでも、美術って、やっぱりすごくつながっていると思うので、そういうことってあるんじゃないですかね。過去に対するアンチでも、その時点で、すでにつながっているわけだし。
私は、美術史をちゃんと学んだことがないのですが、古代から近現代まで、現場主義で色々見ていると、やはり歴史なんだな、ということは、肌で感じるようになりますね。

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開き直りの人とか、この鳥さんとか、非常にプリミティブですが、一方で、こういうかなり写実系も。

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写実的な言い過ぎかな。でも、足のとらえ方とか、結構真剣なデッサンですよね。だって、他は、こんなですよ。

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これはふざけてますよね?
それにしてもかわいいし、独創的だわ~。

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これも、どうしてもほのぼのしちゃうやつ。
でもある意味写実入ってるのかな。三角がかわいい…、ってあれ?耳と耳の間の三角は、何だろう?もしかして二つの角がくっついて、とすると牛?豚と確信してましたが、牛…またはユニコーン。または。

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  1. 2021/05/01(土) 19:54:15|
  2. オーベルニュ 03-63-15-43
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