ピエモンテ呑み倒れ旅、その6
ネイヴェの町にあるこの蒸留所は、まさに知る人ぞ知る、という場所。グラッパ好きの人だったら、絶対知ってるし、誰もが一度は訪ねてみたいと思うそういう場所。
Distilleria Levi Serafino
Via XX Settembre 91, Neive
実は、午前中に訪ねたのですが、入り口が分からずにうろうろした挙句、あきらめて他に向かった経緯があります。かつてはそんなこともなかったのでしょうけれど、今ではネイヴェの新市街の中にあって他の建物に囲まれている上に、派手な看板などがなく、普通の家のようなたたずまいなので、いまどきのこじゃれたグラッパ工場系を想像していたら、まず気付かないんです。その上、門扉は思いっきり閉ざされていたわけですし。
ネイヴェの旧市街にある市のエノテカで訪ねたところ、しかし住所を頼りに訪れた場所は正しいようでした。午前中に行ったけど、多分開いてなかったんですよ、と訴えたら、すぐに電話をしてくれて、今日は14時には開くと言うことでした。
ネイヴェのエノテカ、そういえば前回紹介していませんでしたが、小さいながら、とても親切で、地域のワインの試飲もできます。
ランチのあと、14時過ぎに改めて訪ねました。が…。やはり門扉はしっかりと閉ざされていますし、ベルを鳴らしても、誰一人何一つ反応がありません。本来は、この日も、通常の時間、9時/12時および14時/17時に開いているはずなんですけどね~。
呼び鈴を鳴らすこと3回。同行者が、車で裏の方を見てくる、と出かけた直後、赤いバイクがきゅきゅっと門扉の前に停まりました。
ヘルメットを取ったのは、革ジャンに身を包んだ、一見チンピラのような(失礼!)、濃い顔をしたお兄ちゃん。開口一番、「ごめんねぇ~、ちょっと忙しくて~。もしかして電話くれた人~?」。いきなり、すっごくお友達状態のフレンドリーな空気満載。
びっくりしましたが、嬉しかった~。
ここのグラッパは、グラッパそのものも素晴らしいらしいんですが(実は飲んだことないわけです、わたし)、なんといっても、そのラベルが素晴らしいんです。
かわいいでしょぉ~。ロマーノ・レヴィさん、惜しいことに2008年、天国に召されてしまったんですが、天使のグラッパとも称された伝説のグラッパ職人にしてアーティスト。かつては、彼が、手書きのラベルを作っていたんです。そのイラストが、本当に愛らしいんですよぉ。
もちろんすべて手書きでは無理なので、普通は印刷物になっていましたけれど、最晩年まで、大切な方には、自分の手書きのオリジナル・ラベルを貼った瓶をプレゼントしたりしていたようです。
ロマーノさんは初代ではないのでしょうが、ここのグラッパが広く愛されるようになったのは、このロマーノさんの時代から。ロマーノさんの時代でも、既にどこでもやらなくなった直火方式での蒸留にこだわり、今では唯一直火で作る蒸留所となっています。
わたしは、ラベルだけ知っている程度のど素人だったわけですが、門扉から一歩入ったとたんに、もう断然ここのファンになってしまいました。
もうなんていうかね、別世界。なんていったらいいのかな、こんな場所があるんだ~って驚き。そこらじゅうが雑然としていて、混沌でごちゃごちゃで、でも何か芯が通ってる、みたいな。アートって言っちゃえばいいのかな。全体アートなんです。
ロマーノさんの生活していた時代から、いやもっとそれ以前から、全部がそのままなんです。ありえないってくらいに。
で、対応がまた、冒頭の通り、かなりアバウト。
実際、やっと来てくれたお兄ちゃんは、どうやらロマーノさんの孫に当たる三代目かと思われたんですが、すっごく明るくて楽しい人でしたが、相当忙しいようで、せわしなくて、
とりあえず試飲ルームにいざなってくれて、最初の一杯を注いでくれたあと、「いや、今日って、ほら村のお祭りじゃない、ちょっと僕もいろいろあって、町にものを運んだりしないといけなくて。もう一度行かないと行けないんで、悪いけど、君(と、同行者をさして)、君がさ、試飲を仕切ってくれる?じゃぁ、あとで~」と一人で大騒ぎをしながら、急ぎ足に立ち去っていきましたとさ。
取り残されて、一瞬、呆然としてしまったわれわれ。
まぁでも、酒は目の前にあるし、と勝手に試飲させていただきました。ゆっくりと。
それにしても、ここって世界的に有名なレヴィだよね?と、何度も確かめたくなるようなアバウトさではないですか。ある意味、無用心だし。田舎って、懐が広い?
一通り飲んだあと、ぶらぶらとしていたら、約束どおり、お兄さんは戻ってきて、改めていろいろと説明をしてくれました。
そこらにある備品什器は、歴史的なもので、過去の遺産と思い込んでいたら、いやいや、今もこれを使っているんですよ、ということで、またまた驚きました。
葡萄かすを溜める穴。
確かに巨大ではあり、深さは、数メートル。この時期、収穫シーズンでしたので、バルバレスコやバローロが続々と運び込まれるのを待っている時。作業中じゃなくてよかったかも、です。でも、現役でグラッパを作っているとするなら、決して大きすぎることもなく、葡萄かすを溜め込む場所がひとつしかないなんて、おそらく量産する工場では考えられないことではないのか、と思います。
そして一番驚いたのがこちら。
試飲した部屋の奥にあったんですが、確実に展示用の過去の器械と思っていたら、これまた現役だと。えええ。
直火方式というのを見せましょうと、その脇から建物の外に出ました。
これが、蒸留を行う現役の建物。ほとんど中世の家屋ですよ~。
釜。この上にさっきの器械があります。シーズンの間、ここの火を絶やさないんだそうです。今年の火入れが10月末の週末にあるので、よかったら是非いらっしゃいと誘ってくださいました。いつか一度は行ってみたいですねぇ。
ちなみに、もらったチラシを確認したら、明日午後です。地域の方、是非。
それにしても、すべてが信じられないくらいの年季の入り方。でも何も変えたくないんだ、という姿勢がまっすぐでした。
ロマーノさんが、数々のラベルを描いた事務所も、まったくそのまんま。
窓の手前には蜘蛛の巣がびっしり。ロマーノさんが、蜘蛛はほかの虫を退治してくれるから大切にしていたそうですが…。この事務所の雑然ぶりにも、うっとりしてしまいました。掃除や整理整頓嫌い、いいよね、と共感を覚えるっていうか、自分がそういうことが苦手なんで、雑然とした環境って無条件で落ち着くんですよねぇ。
というわけで、結局カモミール風味のグラッパを1本、お買い上げ。このカモミール風味は、今結構トレンドっぽいようでした。ラベルを見るたびに幸せになりそうです。
スポンサーサイト
- 2013/10/26(土) 07:03:46|
- グラッパ
-
| トラックバック:0
-
| コメント:2
グラッパじゃ試飲繰り返したらフラフラになりそうです。でもここのものなら間違いなく美味しそう!!いいなあ、。
- 2013/10/26(土) 00:48:00 |
- URL |
- たかし #79D/WHSg
- [ 編集 ]
朝もはよから、の試飲でしたが、意外と平気だったんですが。って、勿論、本当にちょっとなめるだけにとどめといたからなんですが、それでも一箇所で5種も6種も試すとさすがに…。で、夕食のあと、夕食ではたいして飲んでないのに、いきなり足にガクッと来たのにはびっくりしました。やっぱり40度以上は、侮れないです!
レヴィさんのグラッパ、おいしいですよ!
- 2013/10/27(日) 22:27:00 |
- URL |
- corsa #79D/WHSg
- [ 編集 ]