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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

ミラノ年末恒例、一枚だけの展覧会

師走の声を聞くと、やっぱりばたばたと忙しくなります。忙しくなるのは分かっているんだから、と11月後半から着々と仕事の段取りを付け出したというのに、結局日々押せ押せで、やっぱり忙しくなってしまうんですね。

そういう最中、今年は早くも二回目の風邪っぴき。これまで風邪は各冬一回、それも超軽くて寝込むこともなし、という真性の馬鹿っぽかったのですが、最近は二回が定番。それも、絶対に会社を休めない時期に引くことになっているのが、厄介です。
今回も、そろそろ二週間。喉から鼻、鼻から喉と行ったりきたりで、声が出なかったり、咳がうるさかったり、鼻がずるずる、と見た目、妙に騒がしいのですが、熱は出ず、いつまでも周りの方々にすごく迷惑な状態が続いています。

という状況で、毎年恒例の、ミラノ市庁舎の一角を開放しての展覧会のことも、すっかり忘れておりました。

今年は、この夏にバチカンでお目にかかったばかりのイケメンに、再会する運びとなりました。ラファエロの「フォリーニョの聖母」が、来ていたんです。




Raffaello a Milano
La Madonna di Foligno
(2014年1月12日まで)

実際に見たばかりだし、今回は遠慮しようかな、と思っていたのですが、ある日の会社帰りについのぞいて、行列がそんなに長くなかったので、つい並んでしまいました。結局寒空の下、たっぷりと20分以上並んでいたので、風邪にはよくなかったんでしょうねぇ。
でも、やっぱり並んでまでも見る価値はありました。

わたしは、自分の好きなものがかなりはっきりしていて、美術館でも博物館でも、どうでもいいや、と思うものはさらさらと流してしまうタイプ。ですから、オーディオガイドとかもまったく興味なく、自分の見たいものだけをじっくり見たい人。
この展覧会がよいのは、たった一枚(場合によっては複数ですが)の素晴らしい絵を、それが好きかどうかは置いといて、じっくりとガイド付きで見ることで、絵の見方、アーティストとの対峙、そういった片鱗を思い出させられるって言うか、一枚の絵にどれだけの情報や思いや歴史なんかが詰め込まれているかを知らしめられるって言うか、そういうことを改めて考える機会となるからです。

バチカンでは人気の部屋なので、多くの観光客の合間から、さらりと眺め、ラファエロはやっぱり品があるよね、ヨハネがイケメンよね、なんて軽口をたたきながら見ていたのですが、今回、ガイドさんのおかげでびっくりする発見もありました。

この絵、オリジナルは板絵だったのだそうですね。
16世紀中ごろ、ローマの、今はずいぶんと新しくなってしまったサン・アラチェリ教会に置かれるべく描かれました。ラファエロがローマに招かれて、初めて物した一品。建前は、絵の右側で、赤い衣を着て跪いているウンブリア出身の貴族シジスモンドが発注したものとされていますが、真相は、シジスモンドが長年秘書として遣えた法皇ジュリオ2世が、シジスモンドの死後に、その墓を飾るものとして発注されたものらしいのです。真ん中の天使が、無地の板を持っていますが、そこは本来なら、発注者の名前が書かれる場所。ここでは、天の前での地上の栄光など取るに足らぬものという意図とともに、そういう発注事情もあったとかなかったとか。

ま、わたしの視線は、どうしてもイケメンで筋肉も程よく美しいヨハネに行ってしまいます。




しかし、ふと思ったんですが、縮尺的に、なんか彼の膝の位置って変じゃないですか。上すぎる?膝を曲げているにしても、なんか変。




あ~、こうやって見るとそんな不思議じゃないか。現場で見ていると、なんかちょっと。特にミラノの会場では、本当にすぐ近くまで寄れたので、見方的に間違っていたかな。
教会に置かれる絵だから、下から見上げることを考えているのかとかいろいろ思いましたが、やっぱり変な気はしました。

で、ガイドさんの説明でびっくりした話になるんですが、この絵、1565年に描かれた後、1797年、TolentinoやPerugiaを経由して、ルーブルに運ばれるんです。ナポレオンの時代なのかな。そして、フランスで板が割れてしまったのだそうです。
その際、一部絵の具の剥落等もあったそうなのですが、フランスには板絵を布に移す技術があったということで、一年以上をかけて、布に移されて、バチカンに戻ってきたという話です。

フレスコ画を教会から引っぺがして美術館で展示するのは聞いたことがありましたが、板絵を布に移すというのは、不勉強で知らなかったので、びっくりしました。ルネサンス当時は、まだ板絵も多かったですから、そういう歴史を持っている絵が、実は他にもあるんでしょうか。心底びっくり。
だって、この絵がオリジナルのままだったら、今はもう残っていない可能性が大きいんですよ。そして、ちょうどフランスに行ってなかったら、当時イタリアにはない技術だったらしいですから、いずれにしてもどうにもならなかった可能性が大きいのです。
とは言え、もしかすると、移動による気候変動などのせいもあるかもしれませんが、そもそも。

しかし、そういう経緯があったとすると、これだけ大きな絵のどこかに、オリジナルとは若干ずれちゃっている何かがあっても不思議じゃないような気もします。

それはともかく、なんだかんだ言っても、ラファエロの筆は素晴らしい。天使もジェズも、ふくふくとして愛らしく、思わず指先で触ってみたくなる柔らかさですよね。




おりしも、今日はクリスマス・イブ。聖しこの夜。皆様が心穏やかに過ごされますように。
わたしは風邪にもめげず、これから宴会に出かけてきます。

いつものロマネスクは、以下でどうぞ。
ロマネスクのおと

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  1. 2013/12/25(水) 01:40:21|
  2. アートの旅
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

No title

やはり本場ですね!

絵を見ているだけで、クリスマス・モードに為りました。
日本での暮らしでは、縁のない年中行事に為った感の在るクリスマス。

ヨーロッパで暮らした日々を思い出しました。

ボン・ノエル!
  1. 2013/12/25(水) 02:55:00 |
  2. URL |
  3. 古代遺跡めぐり<山下亭> #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

山下さん
こっちのクリスマスって、雰囲気はなんとなくありますけれど、飾りつけなんかは意外と地味でもあるんですよね。東京なんかの方が、お祭り感が強い分、イルミネーションもすごいって言うか。裏通りのしょぼいイルミネーションがぺかぺかしている感じが、結構好きですが。
よいお年を!
  1. 2013/12/26(木) 18:18:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

板絵っていうことですが、、、イコンなどは板絵です。
イコンでは板の上にコル・ド・ポー
(兎の皮で出来たものとか膠など)
の糊で木綿や麻布を張ってその上に何回も石膏を塗って絵が描ける
状態にしますので、布に移すって剥がす技術さえあれば
難しくはないように思います。
  1. 2016/11/16(水) 18:04:00 |
  2. URL |
  3. Atsuko #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

> Atsukoさん
板絵の上に、そういったものを貼っているんですか。技術的な知識はないに等しいので、勉強になります。ありがとうございます。
私は、この展覧会で、本当に驚いちゃったんですよ。同時に、絵のずれが、もしかするとそういう理由かも、という発見にも感動しちゃいました。そういうことを知ると、絵の見方が確かに変わりますよね。
  1. 2016/11/16(水) 22:59:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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