マルケ・ロマネスク、その16
ずいぶんと間が開いてしまいましたが、またマルケに戻ります。
最後に訪ねた町、トレンティーノTolentinoです。音だけで聞くと、海外生活二十数年になる今でも、情けないことに、LとRの区別ができないわたしには、北部にあるトレントと同じに聞こえてしまうので、え?と思いましたが、トレントはRでトレンティーノはLなのでした。
実に変哲のない普通の中堅都市で、実は事前にもあまり調べていないので、目的の場所がどういうところかよくわかっていないまま、旧市街に入り込み、街角の表示を頼りにたどり着いたのが、カテドラル・サン・カテルヴォCattedrale di San Catervo。
思いっきり工事中だし、そもそも、本当にここなんだろうか?と思わせるたたずまい。でも、入り口に、誇らしげに「4世紀の石棺」とあったので、とりあえず、これが見るべきものなのかな、とは思いました。ただ、扉が開いておらず、そこらにいた人が、もうすぐ開くよ、と教えてくれたので、いったん町のほうに戻り、もうひとつ怪しい教会にアクセスしてみました。
バジリカ・ディ・サン・ニコラ・ディ・トレンティーノBasilica di San Nicola di Tolentino。
13世紀の美しい回廊がありました。
たたずまいは、わたしには面白くないけれど、回廊の二階部分から垂れ下がっている藤がとても美しくて、アーチのレンガとの色彩コントラストが絶妙でした。藤の木の場所で、珍しく自分の写真を撮ってもらったくらいです。
アーチの上の方には、絵皿がたくさんはめ込まれていて装飾になっているので、13世紀も始めの頃なんでしょうねぇ、スタイル的には。
この教会には、ジョットとかシモーネ・マルティニあたりの中世後期が好きな方なら気に入りそうなフレスコ画もあり、多くの観光客であふれていました。
かなり大き目の礼拝堂の全面ですから、インパクトはすごいし、保存状態が大変よいので、色も美しく、本来興味がなくても、目が惹かれる作品です。
さて、そろそろ、と目的のカテドラルに戻ると、なんと、結婚式です。つまり、準備でさっきは閉まっていたらしいのですね。
どうしよう、と戸惑っているうちに、花嫁と花婿がやってきてしまいました。
花嫁の堂々振りに比べて、花婿はかなり年下ぼくちゃんっぽくて初々しかったですが、しばらく見ていて、はっとしました。そんなことしている場合じゃない、これはまずい…、とあわてて教会に入り込みました。
げげ~!こんなきらきらの教会のどこに4世紀の石棺?あわあわしながら、とにかく奥へ進むと、左側祭壇が、目指すものでした。これ。
かなりローマの石棺ですね。横の方にもローマっぽい浮き彫りがびっしりで、保存状態も彫刻の質も大変に高いものだと思います。が、わたしが注目したのは、もちろんローマではなく、こちらです。
石棺の下、四隅それぞれに、このような猛獣が聖職者を襲っている姿があるんですよ。このライオンらしい猛獣の、ある意味不気味な、でも同時に妙に間抜けな顔、それでいてでかい前足に鋭い爪、聖職者らしい人物の憂い顔と比例のおかしい身体…。これは面白いです!石棺の台として、作られたものと思いますが、こういう組み合わせって、珍しいですよね。
そうこうしているうちに、人々がどんどん入ってきますので、一応、と反対側に行くと、出口になっています。そちらから出る場所に、なんと!もうひとつお宝があるのです。9世紀(と言われている)のフレスコ画。
この場所に、かつて丸い形の霊廟があったそうで、このフレスコは、その壁を飾っていたもの。全体は剥落しているのに、この一部だけが、かなりよい状態で見つけ出されたのですね。そして、つい最近、2004年に修復が終わったらしいのです。
ガラスに覆われているのですが、色は美しいです。上の絵は、後陣部分にあったようです。
今の教会との関係は、以下となります。
このフレスコ画のある場所には、こんなわたし好みの浮き彫りも置かれていました。リュネッタにでもあったものでしょうか。
こうして、外見からは想像もつかない宝物を秘めているカテドラルに、呆然としたトレンティーノでした。このとき、本堂では結婚式たけなわ。脇で、中世に思いをいたしているのも、妙なものだなぁ、とぼんやりと考えながら、裏口からおいとましました。
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- 2014/02/21(金) 06:27:15|
- マルケ・ロマネスク
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