日本からの友人と、イタリア王道(?)旅の巻、その4
音楽テーマで訪ねた場所が、ベネチアにもうひとつ。
サン・マルコ近く、対岸のサン・ジョルジョ・マッジョーレ島を美しく眺めることのできる立地にあるホテル、ロンドラ・パレスLondra Palaceです。
このホテル、かつてはボー・リヴァージュという五つ星ホテルで、かのチャイコフスキーが定宿にしていたというもの。
当時、ベネチアを訪れた音楽家たちは、その多くが、各人お気に入りのホテルを決めていたそうです。ヴェルディは、今はなくなってしまったホテル・ヨーロッパ、前回紹介したワグナーは、ホテル・ダニエリ(その後、ホテル・ヨーロッパに鞍替えしたとか)と言ったように。そして、ロシアの作曲家チャイコフスキーは、いつでもボーリヴァージュに滞在したのだそうです。
ボーリヴァージュは1860年創業ということですから、1877年、チャイコフスキーが滞在した頃は、まだかなり新しいホテルだったのでしょう。当時は、界隈で、最も美しいといわれたホテルのひとつだったそうです。
ベネチアにたどり着いたチャイコフスキーは、私生活で多くの悩みを抱えていて、ウツみたいになっていたようですが、このホテルの滞在によって、お部屋からの美しい眺めに癒され、多くのインスピレーションを得て、頓挫していた交響曲第四番の作曲を再開したとか。
ホテルは、当時とはずいぶんと変わっているはずですが、チャイコフスキーが滞在したお部屋は、大きな変化もなく、今でも現役で使われているのです。
それがこちら。
お部屋は106号室ですが、扉には、番号の変わりに、P.T.Cajkovskij(ピョートル・チャイコフスキー)という名札が掲げられていました。
お部屋は、まるで劇場のような内装になっていました。赤い壁、そして、ベッドとサロンを区切る両側に、小さな円柱が置かれているのです。
ホテルの方の説明によれば、もちろん、ホテルの経営が変わったりして、多くの顧客のお部屋は特定できないのですが(たとえば、イタリア人なら誰でも知っているダヌンツィオも常連さんでしたが、このホテルに滞在したことは分かっていても、どのお部屋にいたかはわかっていません)、チャイコフスキーの場合は、この柱のことが記録に残っていたため、確実にこの部屋に滞在した、ということが分かったそうです。つまり、このような柱があるお部屋は他にないんですね。
壁が赤かったことも、その記録に残っていたので、改装した際に、このようにしたのだそうです。お部屋の改装は、比較的最近にも行われたということで、ピカピカ。
ベッド脇の壁には、当時の写真が飾られています。交響曲の楽譜のコピーも。
そして、チャイコフスキーが癒されたという、お部屋からの眺め。
確かに、サン・ジョルジョ・マッジョーレが遠くに見えます。
私自身も、あの島には思い入れがあるもので、遠い日を思い出して、なんだかしみじみとしてしまいました。
サン・マルコから近いとは言っても、ここまで来ると、路上のお土産屋台、そぞろ歩く人の数もぐっと減り、かなり落ち着いた空気となります。
驚いたのは、お部屋がかなり小さかったこと。
小さめのダブルベッドの両脇は、ほとんど1メートル弱位しかないし、手前のサロンは、3畳間よりも小さいくらい。「意外と小さいお部屋なんですね」と言ったら、ホテルの人は、一瞬むっとした感じで、「ここジュニアスイートですよ」とおっしゃっていました。ということは、一泊おいくらかというと…。
実は今回、このお部屋が見たいがために、このホテルに滞在いたしました。最低でも一泊350ユーロですから、スイートと来た日には…。
さすがにそれだけの料金を取るだけあって、サービスは素晴らしかったです。
レセプションの方たちは、みんなにこやかで親切で、本当にびっくりするくらいに穏やかな人ばかり。高級ホテルにありがちなタカビな態度は一切ありません。
ちなみに、こういうホテルでは、必ずと言っていいほど日本人に出会いますが、このときは、他の日本人はいらっしゃらなかったようです。レセプションの方も、実は日本人はとても少ないんです、とおっしゃっていました。50室ほどしか部屋数がなく、団体は一切受け付けていないし、高級ホテルとしては、とにかくこじんまりとしています。われわれは、こうやって、一人ひとりのお客様との交流を大切にしたいから、団体は取らないんですよ、とおっしゃって、本当につかの間の会話を、楽しんでいる様子なので、こちらも幸せになるほどでした。これは稀有なホテル。
自分にもうちょっと経済的余裕があれば、一年に一度は訪ねるベネチアですから、定宿にしたいものです…。ここなら、ビエンナーレ会場も、かなり近くて便利です。でも、このお値段は、さすがに分不相応。
ちなみに、われわれのお部屋。
一見派手そうですが、きらきらしている中にも落ち着いた、シックな内装。色使いが、イタリアっぽいかも。
ドサドサとした重々しいカーテンが、いい感じ。バスルームも広々としていて、アメニティ・グッズも充実していました。憧れのバスローブつきだしね。
カナル・ビューではなくて、シティ・ビューでしたが、かえってよかった気がします。運河は結構遠いし、シティ・ビュー、美しいんです。いろいろな色が混じった、こういうテラコッタの屋根の眺め、大好きです。あちこちに塔や丸屋根が見えるのも楽しい。
裏側は、修道院だった建物ですから、とても古いようで、一部木造のつくりが見えるのも楽しい。
改装をしたとは言っても、今でも古い雰囲気を残していて、鍵は、いまだにカードキーじゃないんです。
カードキーだと、チェックインとアウトのとき以外は、レセプションも関係なくなりますが、こういうキーだと預ける必要があり、帰ってきたときはもらう必要があり、必然的にレセプションと交流することになります。そういうのが、まさにこのホテルのコンセプトなんでしょう。レセプションには、いつも誰かしらお客さんがいて、何かしらの会話が展開されていました。
お部屋の扉。さりげなくガラスです。
そういえば、唯一残念だったのが、夜中の蚊。
なんと、3時ごろ、プーン、という羽音に目覚めてしまいました。既に何箇所もさされていて、これでは眠れない!とレセプションに電話。さすがに対応は早く、すぐに人が来てくれたのですが、この時期に蚊が発生することはないので、スプレーしかない、とお部屋にまく虫退治のスプレーを持ってきたのです。
でも寝室で大量にはまけないし、こりゃ、眠れないかも、と情けない気持ちになって5分後、電話がなり、大急ぎで倉庫を探したら、ベーぷが見つかったので、すぐ持って行きます!ということで、3分くらいで持ってきてくれました。
ベネチアにはコンビニがないから、大変です。
おかげで、その後はさまでぐっすり安眠できました。
ベネチアには蚊がいるとは聞いていましたが、これまで夏も含めて数限りなく訪ねていても、一度も蚊の被害にあったことはなかったんですが、こういうこと、あるんですね。確かに、まだ網戸も張ってなかったので、異常発生だったのでしょう。そういえば、本当にわたる列車が、ほんのちょっと手前で、5分ほど停止した際、窓に、何匹もの蚊が張り付いていたんです、後から考えたら。
こんな高級ホテルで蚊の被害、って言うのも考えにくいことですが、対応はさすがで、それなりに感心しました。当たり前とは言え。
実は、この後ローマでも、ちょっとした不具合があったのですが、ホテルの文化の違いを、大いに感じました。それはまた後日。
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- 2014/04/25(金) 05:34:25|
- 旅歩き
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| コメント:3
チャイコフスキー、本来はほとんど関係ないブログなんで、どうでしょう。でもご訪問有難うございます。
好きなものが見つかるといいんですが…。
- 2014/04/30(水) 21:24:00 |
- URL |
- corsa #79D/WHSg
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Hちゃん、ほんとよね~。
二等列車の廊下で爆睡とか、飲みすぎの挙句安ホテルの共同トイレに沈むとか(これは君だったか、笑)、そういう日々からすると、夢のようよねぇ。出世したもんだ!
- 2014/05/06(火) 19:22:00 |
- URL |
- corsa #79D/WHSg
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