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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

浮世絵トリップ

ベネチア、建築ビエンナーレ2014、その11=最終回

ジャルディーニの見学を終えて、そのまま帰宅、というのもありだったのですが、時間に余裕があったので、ビエンナーレ協賛企画のひとつを見学していくことにしました。事前に、友人からフライヤーをもらっていて、ちょっと気になっていた展示です。
会場は、サン・マルコ広場から、運河を隔てた対岸にあるサン・ジョルジョ・マッジョーレ島。




ここは、とても思い出深い島です。
今を去ること、二十数年前、初めてベネチアを訪ねたとき、この島に渡って、この写真に見える教会の鐘楼に登りました。
サン・マルコ広場の鐘楼に登らず、なぜかこちらの鐘楼に登ったのです。

そのときのイタリア旅行は、すべてが思いつきで、ガイドブックもなければ、何の計画もなく、ただ気の向くままに歩いた旅でした。ベネチアについても、ほとんど知識がなく、どこで何を見たらいいのかも分からないまま、ただ、ベネチアは見たい、と思ってたどり着いたのです。
サン・マルコの対岸から、ベネチア全体を見ようと思ったのかもしれません。

真冬で、二泊ほどの滞在中は雪で、それ以来お目にかかったことのない、雪景色のベネチアでした。人も少なく、骨が凍りつくような寒さのなか、島に渡り、盲目的に鐘楼に向かいました。多分そのときに、声をかけられたのです。今ではそれが、教会守の方だったのか、聖職者の方だったのかよく覚えていないのですが、記憶の中では、法服をめされた方だったような気もします。
当時は、イタリア語はまったくできませんでした。でもおそらくその方が、この寒さの中、よくこんなところまで来てくれた、というようなことをおっしゃって、わたしの冷え切った手を握って、一緒に鐘楼に登って、いろいろと説明をしてくれたのです。

今思えば、やばいんじゃないか、というような状況でもあるのですが、そのときは、ただイタリア人らしいホスピタリティを感じ、暖かい気持ちになっただけ。当時のわたしは、イタリア人の年配の方から見れば、きっと高校生くらいにしか見えなかった可能性がありますから、純粋に「東洋人の子供が一人で、こんなところで何してるんだろう?」位に思って、心配されたのではないかと想像します。

その旅行中は、レストランに入れば、店の人が常連さんを相席にあてがってくれたり、ひとつ質問すれば10も20も答えが返ってきて、挙句、求めていもいない場所に連れて行かれたり、ということの連続でしたから、多分、あちこちでそういう風に皆さんが考えて、心配してくれたのかもしれません。おそらく、そういうことの結果として、これだけ長く住んじゃったような気もします。

実際、わたしの中でも、そのときの旅は、忘れがたい思い出が満載。その旅で最後の地となったベネチアは、雪景色も含めて、余りにも特別。そういうこともあって、それ以降サン・ジョルジョに渡ることがなかったのかもしれません。
あるいは、単に水上バスが高いから…。

さて、今回サン・ジョルジョで展示されていたのは、モンドリアン風ガラスの茶室。杉本博さんの作品です。
が、船が島に近づくと、いきなり見えてきたのが、こちら。




黄金の角柱が、ドシンドシンというボリューム感で、教会前の広場に屹立しているのです。
遠くにサン・マルコ広場を望んだ、こういうロケーション。




これは、かっこよかったです。

THE SKY OVER NINE COLUMNS
Fondazione Giorgio Cini
by Heinz Mack Curated by Robert Fleck

ドイツ人アーチストの作品。
7.5メートルもの高さの、黄金のモザイクで覆われた角柱が、シンメトリーに9本。昼間は太陽の光に輝き、夜は月の光を反射するという効果を狙った黄金のモザイク。もちろん、サン・マルコ寺院の黄金のモザイクへのオマージュでもあるのでしょう。なんと、85万個のテッセラ(黄金の切片)で覆われているのだそうです。地元の職人さんを動員して製作した、本物のモザイク細工。驚異的です。

あいにくの曇り空でしたが、それでも黄金は神々しかったです。わずかな光でも、水の反射もあるベネチアだからこそ、ですかね。運河やサン・マルコを借景に、まさに、その場でそのときだけになされるインスタレーション・アート。




ちょっと気もそぞろになりながら、当初の目的である茶室に向かいます。
メイン会場の見学者も少なかったこの日は、島に来る人はもっと少なくて、そのせいで、展示場所を探すのも、戸惑いました。普通は、人の流れに乗っていくと、なんとなくたどり着いてしまいますけれど。




曲がり角ごとに、ちゃんと案内板が出ていましたけれど、でもこれだけ人がいないと、なんとなく不安になります。

そして、ちょっとだけ内陸に入った緑の茂みの中に、展示がありました。




わー、何だろう、これ。全体に日本的な雰囲気があるけど、池は、青いモザイクがしかれていて、まるでプール。
ありました。

THE GLASS TEA HOUSE MONDRIAN
By Hiroshi Sugimoto




確かに茶室。小さい入り口もしっかり。
プールには飛び石というか、通路が設けてあったので、近くまで行ってもいいのかと思って石に乗ったら、いきなり怒られました。
隅っこの方でスマホに夢中になっている様子だったおにいちゃんが、実は展示の係員だったのです。
なんだ~、残念。
後ろのほうにも通路があったので、もしかしてそちらの方からは近づけるのかと、懲りないわたし。

通路には、生垣ではなく、なぜか竹箒がずらりと組まれています。




何だろう、このアイディアって。ちょっと似非日本って感じもして、好きになれないアイテム。
裏側にも扉があって、飛び石があるので、そちらを狙ったのですが、柵で閉ざされて、やはり近寄れませんでした。もしかしたら、日によっては、中でパフォーマンスとかもしていたのかもしれませんね。




この頃には、雨脚が強くなって来ました。でも、私以外には、二人ほど見学者が来ていただけで、とても静かな会場。雨が落ちる音すら聞こえそうな静寂で、不思議な気持ちになりました。明らかに西洋の入った和の風景なのに、浮世絵の中に入り込んだようなトリップ感。

というわけで、締めとしては、なかなかよい展示に出会うことができて、大変満足でした。
これで、今年のビエンナーレ詣で、完了です。また、来年のアートを楽しみに待ちましょう。




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  1. 2014/10/16(木) 06:23:11|
  2. ヴェネチア・ビエンナーレ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

No title

またまた、タイトルに喰らい付いての訪問です。
お上手なんですよね、タイトルの付け方が・・・・
思わず覗きに参上いたします。


ベネチアは英国からホリデーで訪れた事があります。
素敵な処だったと記憶に残る観光地でしたよ!

木造の桟橋が腐って折れそうなのが凄く印象に残っています。
  1. 2014/10/16(木) 02:36:00 |
  2. URL |
  3. 古代遺跡めぐり<山下亭> #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

山下さん
すみません~、タイトルで、だましていますよねぇ、明らかに!笑
でも、だまされてくれて、ありがとうございます!

それにしても、どこもかしこも、いらしていますね。まぁ、欧州に滞在されれば、ベネチアは一度は訪ねるべき場所だとしても…。
でも、腐って折れそうな桟橋って言うのは、なかなか渋いですよ。
  1. 2014/10/17(金) 22:54:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

こんばんは

この島の教会、私も一人で渡りましたが、言葉が不自由なので心と身体がいまいち開放されず、鐘楼までは動けなかったです

教会は私一人と思っていたらゲイのカップルが居て、(ひとりが東洋系)つい日本語でお尋ねしちゃって
お邪魔虫だったらしい記憶があります

昨年暮れ、京都将軍塚青龍殿で吉岡徳仁の茶室を観てきました
http://blogs.yahoo.co.jp/poetryfish9/archive/2015/12/19

徳仁さんの茶室のスナップです
  1. 2016/04/09(土) 18:15:00 |
  2. URL |
  3. poetryfish9 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

> poetryfish9さん
あはは、お邪魔虫ですか~。そういうのって、とっても迷惑ですよね、どっちにとっても。笑。

ガラスの茶室、そういえば徳仁さんの、どこかの記事で見たことがあります。徳仁さんは、ミラノのフオリサローネで多くの作品を見て以来の大ファン。彼は、インダストリアル・デザイナーというより、もはやアーチストですよね。
  1. 2016/04/10(日) 14:58:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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