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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

感動に目がくらむ体験(サン・バウデリオ)

カスティーリャ・エ・レオン、その6

この日、いろんなところを、若干端折り気味にしたのは、どうしても午前中、訪ねたい場所があったからです。地味な場所は、こうやって、現実に行く日が来るまで、アウト・オブ・サイトで、知らない以上、存在しないと同然だったりするんですが、今回、いろいろと調べている中で、最も気持ちが惹かれていた場所。




カントハールからの一本道を、そのまま北西方向に進むと、左に分け入る道があります。とにかく何もない荒涼とした土地を、進むこと5分。やはり何もない場所に、ポツン、と地味な建物があります。




サン・バウデリオ礼拝所Ermita de San Baudelio。
11世紀に建てられた、モサラベ様式の、小さな礼拝堂です。

オープンしている時間に行っているものの、こんな荒涼とした場所で、本当にちゃんと開いているのか、やはり不安になりますので、他の車があったことで、ほっとしました。

馬蹄形の扉口が、しっかり開いているのがわかり、全身ドキドキしながら、近づきました。




そして、一歩建物に入ったら、息が止まるような、そういう状態になってしまって、夢遊病者状態っていうんですかね。何か、導かれるように、後陣部分に向かってふらふらと…。
そこで、係員の方が、そっと寄ってきて、フレスコ画の説明を始めた時に、ふと気づいて、最初の撮影が、これです。




身も心も、完全に上ずっていました。そして、びっくりすることに、涙があふれてきたんです。
係員の方は、あの精霊が云々、と説明を続けられていたのですが、いきなり感極まっている私を見て、一瞬沈黙。自分自身でも戸惑って、あ、なんか、なんだろう?とアワアワしてしまいました。心底驚きました。ここ、絶対何かいます。
係員の方も、「そういう感じ、あなただけじゃないのよ。何か、空気があるんだろうね。」みたいなことをおっしゃっていました。

気を取り直して。




と言っても、そういう状態でしたので、実は、あまり良い写真、撮れていませんでした。
この、小さな礼拝堂、内部の壁すべてが、当時のフレスコ画で覆われているんです。




そして、乾いている土地だけに、保存状態も良好。




なのに、大変残念なことに、下の方の一部は、はがされて、マドリッドのプラド美術館で展示されています。プラド、過去に何回か行っていますが、ロマネスクを始めてからは行ってないので、残念ながら、気付いたことはありませんでした。ボイ谷の一連のフレスコ画と同様、文化財保護の名目で、ひたすらはがしまくっていた、おそらく同じような時期の話ではないかと思われます。
美術館入りにする気持ちもわかるし、放置されていたらどうなっていたかは、もちろんわからないのですが、はがすことのできなかった部分の保存状態を考えると、ここに置いておいたからといって、劣化することはなかったのだと思います。
もちろん、劣化よりなにより、バンダリズムなどで、永遠に失われてしまうリスクを優先したのでしょうけれど、しかし、そのままの状態で残されていたら、どれだけ美しい姿だったろう、と思わずにはいられません。

ボイ谷のケースと違い、ここでは、はがした後の、壁にしみ込んだ部分をそのまま残してありますので、もちろんオリジナルではあるのですが。

フレスコ画とともに、この礼拝堂は、その建築スタイルもとても面白いものです。小さな建物の中央部に、ヤシの木のようになっている柱が屹立しています。




これが、構造上、天井を支えるものとなっているのか、または装飾的なものなのかは、不明。現地で詳細な本を購入したので、今後、じっくりと読んでみたいと思っています。
この、ヤシの木状の部分のフレスコ画も、とても素敵。




構造上形態上、これははがせなかったんでしょうねぇ。幸いです。




そして、柱を中心にした反対側は、クリプタの、円柱の林のようになっています。これはメスキータ状、というべきなのかな。




このメスキータの上は、二階構造となり、壁にへばりつくようにして作られた、幅の狭い階段で、アクセスすることができます。




と言っても、通常は、アクセス禁止。でも、実は、ちょっとだけ、登らせていただきました。上部は、普通の教会でいう合唱席みたいな構造になっています。ヤシの木状の柱の上部がくりぬかれて、そこがまた、内陣的な、礼拝堂の中の礼拝堂とでもいったような構造になっていて、その小さな部分のフレスコ画も、しっかりと残されていました。

階段を登るのも秘密だったので、撮影は勘弁してね、ということで、自粛。
下からは、この構造の陰になってしまって見えない部分も、びっしりとフレスコ画だったので、普通に見られないのは残念なことです。

最初にアクセスした、内陣部分は、モサラベ風の扉口で、礼拝堂のメイン・スペースとはしっかりと区切られています。




この扉口から、メスキータの方を見ると、その左奥に、穴が開いていて、その先は洞窟になっています。




建物から洞窟、というのも不思議なんですが、トップの写真で立地を見ていただくと、理解できるかな。建物が、丘の斜面に建っているのですね。洞窟は、この丘の地価ということになるようです。

入りたい人は、懐中電灯を借りて、中に入ることができますが、何もありません。




結構奥深く、三つくらいのスペースになっていたと思います。説明は、あまりよくわからなかったのですが、ガイド本をざっと見ると、もともとこの洞窟が隠遁所みたいな感じで使われていて、後から礼拝所ができたような、そういう感じみたいです。確かに、Ermitaって隠遁所というような意味だと思うので、そういう求道者がいた土地なのだと思います。
建物のわきには、ネクロポリの跡が発見されているので、おそらくちゃんと宗教施設ができるずっと前から、神聖な場所だったと想像されます。周囲を歩いてみたところ、湧き水の流れもありましたので、修道院ができても不思議じゃないような、たぶん、そういう土地なんです。




こんな小さな建物の見学に、半時間以上、費やしたと思います。それでも去りがたく、炎天下の中、湧き水まで発見してしまったというわけです。
係員の女性も、びっくりするくらい熱心で、訪問者一人ずつに、きちんと説明をしていらっしゃって、それもまた好感度高い施設です。
多くの訪問者が訪れて、いつまでもこの美しい姿を保ってほしいものだと思う半面、自分が訪ねる時には、静謐の中で見学したいなぁ、などと、不遜なことも考えてしまう私でした。

この日は、午後に、やはり長年のあこがれの場所を訪ねたのですが、ここでのインパクトがすごすぎて、感動を使い果たしちゃったような、脱力感がありました。それは、また先の記事で。

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  1. 2016/08/08(月) 00:00:12|
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コメント

No title

風景写真を見てグラナダ、ロンダなどのスペイン旅行を思い出しました。

ロンドン住まいの時、休暇で1週間ぐらい旅行会社のツァーに参加した事を思い出しました。

陽射しや風景は写真の風景と同じでした。
  1. 2016/08/08(月) 03:24:00 |
  2. URL |
  3. 古代遺跡めぐり<山下亭> #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

corsaさんの琴線を震わせたこのermita行ってみたいみたい!それにしてもなあんにもないところにポツンとという言葉通りのところですね。
美術館の一つの作品に全てつぎ込んで抜け殻みたいになった経験がありますので、corsaさんの様子、想像がつきます。
  1. 2016/08/08(月) 08:18:00 |
  2. URL |
  3. otebox #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

山下さんは、本当にいろいろな場所に行かれていますよねぇ。
アンダルシアは一回しか行ったことがないのですが、とにかくスペインは、全体に乾いています。個人的には、乾いてない、緑滴る北部が、結構好きです。
  1. 2016/08/09(火) 22:15:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

> oteboxさん
ぜひ、次回のロマネスク探訪には、ここを!
絶対に好きだと思います。係員の女性とも、意気投合しますよ!ここを心底愛している方ですから(同時に、興味ありそうな人には、もれなく、しっかりと本も販売するところも、すごいです)。
とにかくこのあたり、想像以上に素晴らしかったです。
まだまだ続きますので、お楽しみに。
オリンピックのおかげで、つい滞りがちですが、笑。
  1. 2016/08/09(火) 22:18:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

この、建物のたたずまい・・導入部分から「あなたがこれを選んだのは何かあるから」とわくわくです

内部も面白いですね枝分かれしている柱の根元がきれいですね
階段もとても素敵に2階に憧れます
行った人でなければ見れない特典もあり

今日も楽しみました、ありがとうございます
  1. 2016/08/14(日) 23:27:00 |
  2. URL |
  3. poetryfish9 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

> poetryfish9さん
コメント、ありがとうございます。
行かないとわからないものがあるな、というのを、久しぶりに感じた次第です。
この手の旅は、あまりに自分の好みに偏っている上に過酷なので、必ず一人で行くのですが、こういうとき、一人旅のありがたさを感じます。なにか、思いっきり解放された感がありました。別に、抑圧されているわけでもないんですが。笑。
  1. 2016/08/15(月) 16:45:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
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No title

私も偶に涙が溢れてくる教会に出会うことがあります。
素晴らしいお祈りを聞いてウルウルしてしまうことも
あります。
このチャペルは隠遁者の住んでいた洞窟の前に
つくられているのですね!
外からでは想像もできない美しい内部ですね!
ナイス・ポチ!
  1. 2016/12/01(木) 23:58:00 |
  2. URL |
  3. Atsuko #79D/WHSg
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No title

> Atsukoさん
いつも余裕のない旅ばかりで、駆けずり回っているので、比較的クールに見てしまうんですが、時としてこういうことが起こります。いろいろな理由があるのだと思いますが、ここは、確実に何かがいたと思っています、笑。
とにかくロケーションとの落差がすごい礼拝所です。
  1. 2016/12/07(水) 23:26:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

貴重なご体験を含む、いいお話を読ませていただきました。壁画を美術館で保管することの是非は、悩ましい問題ですね。20世紀初頭に起きた宗教美術品の大量国外流出や、内戦時の教会焼き討ちなどを考えると、批判もありますが、カタルーニャ美術館で壁画を集中保管して来たのは、正解かという気がします。プラドに展示されているBaldelioの壁画は、NYメトロポリタン美術館からの永代貸与品で、フランコ独裁政権時代に、ロマネスク教会の後陣一式との交換条件で、手に入れたものらしいです。残りは米国に叩き売られたまま戻って来ないようですね。
  1. 2017/11/16(木) 20:11:00 |
  2. URL |
  3. Surdepirineos #79D/WHSg
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No title

> Surdepirineosさん
こんな過去記事まで見ていただき、ありがとうございます。
そうなんですよね、悩ましい、というのが本当にピッタリな問題です。
NYが所有しているものとは知りませんでした。せめて、スペイン本国にあることをよしとするんですかね。
でも、美術館で見るロマネスクは、どうも感情移入もできませんし、つらい気持ちになります。遺産の保護という観点からは、圧倒的に正しいと思いながらも…。
フレスコ画は、特に、建物と一体化しているからでしょうかね。柱頭などの彫刻作品は、美術館展示も、ありかと受け入れやすいんですけれど。
  1. 2017/11/16(木) 23:12:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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