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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

ロンゴバルドもビザンチンも(チヴァーテ4)

再び、チヴァーテCivateのサン・ピエトロ・アル・モンテ教会Basilica di San Pietro al Monte、続きです。

過去にホームページに掲載したとき、結構調べて、たくさん書いた気がしていましたが、今見返すと、たいしたことなかったですね。ここは、一つ一つアイテムごとに見ていくと、本当に突っこみ所がたくさんあるし、調べれば調べるほど、いろいろな資料も出てきてしまうし、きりがないようです。が、改めて面白いな、と思っています。
今回も、とても読み切れないし、芸術作品のみを、それも自分が気になった一部のみを書くわけですが、こうなると、定期的に訪問して、その度に何かを発見して、資料を当たる、というような形で、少しずつ、理解を深めていくしかなかろう、という気持ちです。

2020 civate 034

今の後陣側は、構造はがらんとしていて、その真ん中に、チボリオがあります。チボリオは、通常、後陣にある装飾類を隠してしまうことが多いし、その構造そのものが、あまり好きではないのですが、ここでは、これ以外の装飾がない場所ですので、問題なし。
2007年に訪問したときは、チボリオを含む全体を修復中だったと思います。それに、前述のように、あまり好きなアイテムではないので、ほとんど細部までは見ていなかったように思います。

(自分のHPからの引用)「身廊の中央部、一段高くなった祭壇部分に、Ciborio(聖体用祭壇)があります。美術史上、このバジリカでもっとも重要性が高いと思われます(個人的には、フレスコ画や漆喰模様の方が好みですが)。装飾的にも 建築学的にもミラノのサンタンブロージョにあるものと非常に似ているのだそうです。屋根の破風部分に、キリスト教教義の要点が表されていて、キリストの死、復活などの場面が、漆喰装飾で 表されています。左は、入り口に向いた正面部分。教会に入ってくる人に向けた第一のメッセージで、ビザンチン起源の図像、勝利するキリストのイメージに従った十字架のフィギュアということです。キリストは穏やかな顔をしており、脇で苦悩する聖母、使徒ヨハネがいます(この辺の感覚は、勉強不足でよくわからないのです)。北側(正面から右)は、復活(マグラダのマリアが、空っぽの墓の前にいる場面)、西側は、キリストがサン・ピエトロに本を、サン・パオロに鍵を与えている場面、南は、二人の天使に支えられたアーモンドで囲まれた玉座に座るキリストで、これは昇天を表しているもの。四隅の 円柱の柱頭上には、鷲、ライオン、牛、人と、四人の福音書家のシンボルの像がつけられています。内部は、クーポラの四隅に、黙示録の四大天使、そして18人の聖人に囲まれた子羊(キリスト)が中央に おかれています。」

ふふ、当時からチボリオ嫌い、笑。この後も、あちこちで目にしているアイテムですが、好きになれないままです。
今回資料を見ると、どうやら、上物や柱頭は、再建臭いです。ちゃんとした再建だと思いますが、なんかゴシック臭もあり、あまり好きになれなかった理由が腑に落ちます。

このチボリオが注目されるのは、ミラノのサンタンブロージョ教会にあるチボリオとの共通性です。ミラノのは、これ。これも、2018年同時期に訪ねました。久しぶりのサンタンブロージョ。

2020 civate 035

ほぼ同時代の作品らしいのですが、教会の規模が違いますから、まず、大きさはかなり違います。そして、経済力と土地の性質から、マテリアルも相当違うようです。当然のことながら、サンタンブロージョは、より高価な材質を多用していると。一方、チヴァーテでは、地域で手に入るものしか使えないわけです。
また、当然石工さんの技術力も違いますね。ミラノでは、工賃を気にせず発注したくらいのものがあると思いますが、チヴァーテの山の上で、おこもりしてくれる石工さんは、限られたでしょうからねぇ。

では、この相似はなぜか、と言うと、同時代、まずこちらサンタンブロージョのチボリオがあったのを、どうやら真似したんでは、ということらしいです。結構単純で下世話、笑。サンタンブロージョからは声がかからない石工さんが、俺だって、と思ったのかどうか…。でも、コピーって、ちょっと寂しい気もします。

先述したように、以前訪ねた時は、修復中だったこともあり、よく見られなかったのが、上物の内側です。

2020 civate 036

これは、きれいでした。ライトアップされているので、よく見えますし、全体にパステルカラーで、すがすがしく美しい。描かれているのは、HPからの引用通り。
四隅にいるのは大天使だったのですね。とてもかわいいんですよ。

2020 civate 037

喜びいっぱいで踊ってる感じ、どうです?
どの大天使もこういうポーズで飛び跳ね感満載です。

この部分の装飾は、ミラノのチボリオにはないものです。が、もしかすると、オリジナルはあったのかもしれませんね。または、材質も技術もいまひとつな中、何かできないか、と考えた結果の装飾かもしれません。

さて、もう一カ所、訪ねるべきはクリプタとなります。

2020 civate 038

ロンゴバルドとか、ビザンチンとか、この土地を通過した文化が、少しずつ残っている、今残っている建物の中で、最も古い時代の構造となります。
不ぞろいの柱は、もともとは、漆喰による装飾で覆われていたもの。長年にわたる湿気などで傷み、すべてはがれてしまったのです。

このクリプタは、冬季や、夜間の祈りなど、気温の低い時期に使われていたもの。そういう時に、多くの人々が入ることで、熱や湿気、はたまた二酸化炭素の影響などもあったんでしょうかね。そう考えると、よくも、これだけ残っていたものだと感心もします。
柱頭もまた、ストゥッコ装飾ですが、こちらは、結構ちゃんと残されています。

惜しいのは、それよりも、壁面を覆っていたであろう、多くのストゥッコ・レリーフが失われてしまったことです。残されている一部を見ても、素晴らしいもので、きっと、他の壁面にも、新約聖書のエピソードがあらわされていたものと考えられます。
祭壇の左に、「幼子の神殿奉献と、シメオンの賛歌」があります。

2020 civate 039

これだけじゃ、私など、解説なしにはさっぱり。本来は、右側に、ジェズを抱えたマリアがいるはずなんでしょう。左側にいるのは、シメオンとアンナ。シメオンが、広げた布の上に、幼子を抱き取ろうとしているところです。
その前に置かれた円柱的な祭壇みたいなものは、ユダヤ教の祭壇にも見え、また、古代ローマの祭壇にも見えるようにあらわされているそうです。彼らの背後にある建物は、エルサレムの神殿で、当時こういうものであろう、と考えられていた様式であらわされているそうです。
こういうのって、中世期の表現には結構あって、面白いと思う点の一つ。風聞だったり、時代が違う人を表しても、自分の時代の衣装を着けちゃったり。

祭壇のところは、エピソードが二段構えになっています。

2020 civate 040

ちなみに、この両脇にあるつけ柱の装飾ですが、おそらくこういう漆喰装飾が、すべての柱を覆っていたものと思われます。豪華なクリプタだったのですね。

下段には、キリスト磔刑図。残念ながら、キリストのお姿が傷んでいます。これは、かつて、ろうそくの火からボヤが起こって、この部分だけが、傷んでしまったということなんです。もしかすると、当時、キリストが身を挺して、自分の身体だけで被害を抑えた、とか伝説ができたりしたかもしれないですね。

ここでも、昨年、一昨年、どちらの訪問時もガイドをしてもらい、面白い話をたくさん聞いたのですが、メモが見つからないので、涙、きいた話で、印象的だったことを一点だけ記しておきます。
この、磔の十字架部分に注目です。

2020 civate 041

渦巻き状の模様が彫られているのがわかるでしょうか。これは、十字架の木が芽吹いている様子なんです。十字架にされた時点で、木は成長をやめて死んだものとなるはずなんですが、芽吹く様子を描くことで、復活を表しているという話。
プーリアの洞窟教会でのビザンチン絵画を見学したときも、同様の表現があり、感心したのですが、これは、ビザンチンの図像学となるのでしょうか。またはカトリックも同様なんでしょうかね(でも、今回紐解いた書籍には、「宝石のちりばめられた十字架」、とありますので、真偽は不明)。

キリストの磔刑像の両脇にいるのは、洗礼者ヨハネとマリア。あれ?デエシス?とか思ったり、そうすると、やはりビザンチンか?
いやいや、これ、普通の図像みたいですね。

全体像に戻ると、ヨハネとマリアそれぞれの近くに小さく描かれたのは、兵士。オリジナルでは、それぞれが槍と棒を手に持ち、その先にお酢をしませたスポンジをさしていた、とあるのですが、お酢?死に際のキリストに、のませようとする人がいたということらしいですが、お酢というより、ダメになったブドウ種なのかな。
なんでそんなことがわかるかというと、右側の兵士の腰に、そういう容器がぶら下げられているからだそうです。エピソードの細部まで知らないと、そんなのわかりませんよね。

でも、しょっちゅう教会に行って、いろんな図像を見ているんですけど、聖書そのものを読み込んでいないし、なかなかエピソードが頭に入らない。毎度、情けなくなるのですが、この槍を持った兵士が、有名なロンギヌスなのですね。ロンギヌスの槍って、そういえばアルメニアにあるみたいです(アルメニア、この夏に行こうと思って、いろいろ調べていたのですが、コロナで無理になりましたので、とても残念です)。

さて、上部は、聖母被昇天図となります。

2020 civate 042

右側でぎゅうぎゅうしているのが、天の国の人たちで、マリアの昇天を今か今かと嬉しく待っています。先頭で、十字架付きの立派な光背を背負って、祝福しているのは、キリストその人。
左側で片手を頬に充てる嘆きのポーズをとっているのは、地上の人々です。
天使が、マリアの魂を持ち上げている上部に描かれた町は、勿論天の国。

皆、極限的な歯痛を我慢しているような憂鬱さ前回の地上の人たち。

2020 civate 043

それに対して、美しいお顔を引き締めて、早く俺たちのもとに!と言わんばかりの自信満々、強権発動的な天の人々。キリストそのものの、きかんきな有無を言わせぬ様子、ただ事じゃないです。

2020 civate 044

ジェズのエピソードから磔刑までですから、主だった新約聖書のエピソードが、ちりばめられていたはずですよね。残念です。

もう一つ触れておきたい装飾は、フレスコ画。
クリプタのトップの写真、全体増で、右側の壁面(南壁)に見えるものです。

2020 civate 045

クリプタは、先述したように、もともと冬場とか夜間とか、暗い時に使用されることが多く、暗闇では、凹凸があるレリーフ装飾の方が、目に見えやすく、意義があったであろうし、また、少ない光で増幅されて、効果的であったろうという説、理解できます。でも、このクリプタが作られた当時は、結構光が入ったはずで、特に、このフレスコ画が並んでいる側には、自然光が入り、フレスコ画装飾の意味もあったはず、ということらしいです。
で、その光を寿ぐように、数人のフィギュアが描かれています。
いずれも、油を入れた容器がぶら下がったたいまつを持っている図。
そのうち、最もよく全身像が残っているのが、サンタニェーゼSant'Agnese、聖アグネス、上の写真です。

(2020.03.20.加筆)
いつも訪問いただく方から、このフレスコ画のモチーフについての疑問を伺っていたのですが、お答えになる文ではなかったので、加筆します。
この、Civateをケアしている団体の見解としては、建設当時の構造では、このフレスコ画の描かれた面には、外光がよく差し込んでいたことから、光を祝う儀式がモチーフになっているということなのです。たいまつを掲げた複数の人の並ぶ姿が、それであると。
一部で、「賢い乙女」がモチーフではないか、という説も、確かにあるようです。油つぼとたいまつですから、確かにそれも納得はできるものです。
ただし、描かれている人物には、男性も混じっており、全員が同じようにたいまつを掲げているようなので、単純に賢い乙女というのも、違うようにも思われます。
アニェーゼについては、何とも言えませんが、後付けの可能性もありますが、ルチアの名前も見られるようですから、人気聖人コスプレ、笑、みたいな発想だったかも知れませんよ。
(加筆終わり)

アニェーゼは、確か10歳くらいで殉教した少女だったと思います。ローマに、彼女にささげられた立派な教会があり、その後陣モザイクに、美しいお姿を見ることができます(ローマの中世書庫で、見ていただくことができます)。
ここで、念のため聖人辞典を調べてみたところ、なんとアニェーゼは、二人いることがわかりました。一人は、私も知っていたローマの少女。もう一人はギリシャ出身の大人の女性で、神殿で衣服を脱ぎ棄て裸身になったところで、生贄になるのを拒んだところ、神の望みで髪の毛が伸びて裸身を隠し、白い衣服をまとっていたと。
なんだか、かなり異なる二人ですが、どうも、この二人が一緒くたになったのが、アニェーゼという神格のようです。
ローマのアニェーゼはローマに実際に住んでいた少女のようなので、教会モザイクも彼女のものと思いますが、アニェーゼという名前はギリシャ起源で、純粋とか純潔を表す者等いことなので、ここでも何らかの混乱というか、入り組んだ様子です。
ビザンチン世界では、大人のアニェーゼ信仰がありそうですね。

あんまりかわいいんで、ちょっと貼っときますね。

2020 civate 046

ま、最後はアグネスちゃん、となってしまいましたが、チヴァーテ、面白さがわかっていただけたでしょうか。登山はちょっときついですが、登る価値は大。もう体力的に登れない方には、一年に一度、ヘリでのアクセスも可能ですので、是非。

2020 civate 047

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  1. 2020/03/16(月) 02:32:35|
  2. ロンバルディア・ロマネスク
  3. | コメント:2
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コメント

アグネス、つまり アニェーゼ 、銘からすればそうなのですが、ホームぺージにかいたようになぜ油壷を持っていたかは謎です。私はM氏の説のように銘はアグネス信仰の高まりを反映した後代の書き加えの説を信じたくなります。当時の政治状況から見ると 賢い乙女 説はうなづけます。
誰を描いたかはともかく いい絵ですよね。
十字架の 模様? にまでは目がいきません細かいこまかいところまでよく観ていらっしゃいますね。 私はあの空間に圧倒されていたような気がします。
私が行った当時でもヘリコプターを借り切っていった方がいらっしゃるという話は聞きました。
この記事をかいてくださったおかげでしばし当時の思い出に浸りました。 本当にきつかったです。 あののぼり。
  1. 2020/03/16(月) 02:43:21 |
  2. URL |
  3. yk #C8Q1CD3g
  4. [ 編集 ]

フレスコ画について、加筆しました

YKさん
返信遅くなりました。
ちょっと加筆しときました。
本当のところは、誰にもわかりませんが、Amiciの見解は、賢い乙女ではありません。どういう確信があってか、は勿論わかりませんが、笑。
次回があれば、是非、聞いてみたいと思います。
あそこに行くと、あんまり見所が多すぎて、ただ、ほぉぉぉ、となってしまいますよねぇ。
おそらく、以前に比べると、研究も進んでいるし、その分、ガイドの説明も、細かくなってきている気はします。まだまだ、いろんな発見や気付きが出てくると思っていますので、いつになるかわからない訪問ではありますが、何か気になることがあれば、教えてくださいね。

  1. 2020/03/20(金) 18:05:20 |
  2. URL |
  3. Notaromanica #-
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