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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

衝撃的に印象的なMezzorilievo(キアヴェンナ)

(2019年10月訪問)

そういうつもりではなかったんですが、今や世界でもトップクラスのホットな土地、ロンバルディア特集になっていて、なんだか複雑…。
ご心配くださっている皆様方には、どうぞご安心くださるようにお願いします。元気に生きております。1週間に1回、スーパーへの買い出ししか外出できない生活も3週目ですが、人間、慣れるものです。

ロンバルディアは、誰でも知ってるロンバルディア帯だったり、コモの石工だったり、ロマネスク芸術には多くの貢献をしている土地ですから、ロマネスクの遺構はたくさんあるんです。どれもが比較的地味なんですけれど。
中でも、コモ湖周辺は、宝石箱をひっくり返した状態で、小さな教会が散らばっています。どこも行きにくいので、住んでるからこそ、気軽に訪ねられるわけでもあるのですが、実は、ミラノからも、結構行きにくい。というか、遠いんです。
コモ湖畔最大の町は、ミラノ寄りのコモだと思いますが、そこまでは、車で40分程度だし、高速並みの国道ですから、快適ドライブなんです。しかし、コモ湖の北部は、湖畔の道を延々必要があり、前回記事にしたサン・フェデリーノあたりだと、2時間ほどもかかってしまい、同じ時間を南に進めば、ボローニャまで行けてしまうというような、そういった場所なんです。というわけで、このところご紹介している数々は、これまでなかなか行けていなかった場所なんです。

2020 chiavenna 001

訪ねたのは、キアヴェンナChiavennaという町です。アルプスが迫る山のリゾートといった風情の町となります。ここは、鉄道駅もあり、それも町中なので、電車アクセスも可能です。車であれば、鉄道駅の駐車場が便利です。

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山あいに広がる、中世の町という風情。中世の地味な塔が、ありました。
さて、でも目的はこれじゃなくて、こっち。

2020 chiavenna 003

サン・ロレンツォ教会Chiesa di San Lorenzoです。
どう見ても、中世じゃないじゃん、なんですけど、実はここにお宝があるんですよ。もうずっと行きたいと思いながら、道のりの遠さにひるんでいた場所。こんな変に半端に新しい入れ物になっているとは知らず、場所を特定するのに、ちょっと手こずりました。

イタリアだと、どうしても資料に目を通してしまうし、素通りできないので、他の国のケースと違って、饒舌になりがちですみません。今回も、だらだら書いてしまいます。

このキアヴェンナ谷Valchiavennaは、イタリアから北部へとつながる交通上の要衝だったことから、かなり古い時代から、人々の定住があったものとされています。しかしながら、キリスト教が定着した時代や状況については、詳細は不明なんだそうです。ロマネスク期に、定住者が増えたから教会も爆発的に増えたのか、その前から、同じように多くの定住者がいたのかどうか、ということなんでしょうけれど、考えるに、ロマネスク様式が広がったのは、人の行き来が盛んになったからなわけで、10世紀ころから、往来が増えるとともに、定住者が増え、町村としての体裁が整ってきたということなんでしょうね。
コモ湖の西側は、Viale Regina女王街道という古い道があり、それ沿いの村々に、ロマネスク教会があります。一方東側は、土地の関係でしょうか。西側に比べると町村が少ないのですが、立派な修道院(ピオナ修道院)が、今も残っていますね。

で、キアヴェンナに話を戻すと、このサン・ロレンツォ教会も、11世紀前半には、すでに教会があったという記録があるようです。また、12世紀初頭に洗礼堂が付け足されたという記録もあります。
しかしながら、16世紀前半に、火事で焼失、その後、後期ルネサンス様式で再建されたために、私などが行っても、感動がない外観になってしまったというわけです。

では何を見に行ったかというと、こちらになります。

2020 chiavenna 004

洗礼盤Fonte Battesimaleなんです(3月/5月および10月/12月:土日祝9-12/14-17、6月/9月:毎日9-12/14-18)。
立派でしょう。すごく大きくて、びっくりしました。

この地域で産出するOllareという石の塊から、掘り出されたもののようです。
オラーレという石は、初めて聞いたと思うのですが、まさにこの地域特産の石で、加工が容易なのに、火に強い性質を持ち、主に、オープンやストーブ、また鍋や鉄板などの調理器具にも使われるものなのだそうです。ということは、今も石切り場があるということなんでしょうね。

1699年、もともとこの洗礼盤が置かれていた八角形の洗礼堂が、新しい構造物をつくるために壊された際、洗礼盤は、新しい建物に置かれることとなりました。しかし、なんということか、移動する際に、今は、階段状になっている台で支えられていますが、本来、支えとなっていた福音書家のフィギュアが壊れて失われたしまったということです。今残っているものだけで、もうびっくりするくらい素晴らしいのですが、これが、猫脚状態で、福音書家のフィギュアに支えられていたとしたら、かわいらしくて、叫んじゃいそうですよ。残念。

円周6メートルもあり、なぜそんなに大きいかというと、イースターおよびペンテコステの際に、キアヴェンナだけでなく、この地域一帯の新生児の洗礼を実施するためだったんだそうです。17世紀になって、地域のあちこちの教会で洗礼が可能になると、この洗礼盤の役割が終わり、ここでも、より小さな洗礼盤が用いられるようになったということです。

せっかくなので、浮彫の全体を、じっくりと。
テーマは、古代の洗礼儀式を描いたものということです。洗礼の本来の主役である水、聖水を祝う儀式ということで、キリスト教と古代宗教の混ざったイメージのテーマになっているんでしょうか。お水を祝うって、ふと、お水取りとか浮かんだんですけれど、水は、どの宗教でも重要なんですね、きっと。人にとって重要なもの、という背景がやはりあるんでしょうか。人が、水から生まれてくるからでしょうか。

彫り物では、浅浮彫Bassorilievoというスタイルが多いですが、これは中浮彫Mezzorilievoというスタイル。ほとんど、飛び出す絵本状態で、彫刻との差は紙一重ですね。Mezzorilievoと明確にされているケースは、非常に少ないため、これまで、浅くないよな、と思いながら、浮彫は全部Bassorilievoと認識していました。いい加減にみているので、いつでも新鮮な学びがあります、笑。

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主人が、洗礼を受ける子供を抱き、イースターのろうそくを持つ待祭。祭司ら、助祭が支える典礼書を読みながら、洗礼の祝福の祈りを行っている。

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他の助祭が、三角帽をかぶり、司祭の十字架を持っている。

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それに続いて、火のついたろうそくを載せた燭台を持つ副助祭。この副助祭、ライトセーバー持ってる風で、イケメンですね。

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三人の使徒が釣香炉と聖なる油の入った小瓶をもって続く。

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儀式には、三人の儀式には直接関係ない人々が彫られています。

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城で働く鍛冶屋、塔の上で見張りをする兵士、鷹を持った優美な騎士。
これらは、当時の生まれつつある社会における階層、つまり、職人、普通の人々、貴族を表したものとも、イースターの祝祭に参加する皇帝の代理人(騎士)、キアヴェンナのシンボル的な代理人、そして自由都市の自尊心を表すフィギュア(鍛冶屋と兵士)という解釈も。

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浴槽の淵には、1600年代に彫りこまれた分があり、そこには、キアヴェンナおよびこの一帯の人々の望みで、1159年3月に、この洗礼盤ができた旨、記されています。

作品は、場所から言っても、当然コモの石工のものですが、かすかにモデナで活躍したマエストロWiligelmoの影響がみられるということです。それは、背景がすっきりすべすべで、余計な彫りこみがないことや、人物がシンプルな線を基本にして彫られていることなどだそうです。モデナの大聖堂にある素晴らしい彫り物絵巻を、改めて写真で確認してみないといけませんね。
しかしなぜ、Wiligelmoの影響があるのでしょうか。当時、コモの石工の技術は引っ張りだこでしたから、当然有名マエストロの工房には、コモ石工さんがいないわけがないですね。それで、マエストロと仕事をした経験のある石工さんが、どうやらこの彫りにも関わっていたのでは、という推測ができるのです。
コモの石工さんは、ヨーロッパ中を歩いて、その技術を伝承するとともに、各地で異なる技術を得て、融合して、どこかで実現して、ということをやっていたのかもしれませんね。それって、すごくロマンですねぇ。

2020 chiavenna 012

今は、こんな風ですが、オリジナルは、浴槽だったのでは。
一部失われたのは残念ですが、実に素晴らしい洗礼盤です。よくぞ、これだけでも保存してくださった、と感謝の念でいっぱい。

2020 chiavenna 013

ちなみに、ここは、門番さんがいますけれど、入場無料。
一方、お隣に宝物館があり、そちらは有料となります。ロンゴバルド細工的な、キラキラの聖遺物入れとかあるようなんですが、このときは、入りませんでした。
一人じゃないと、若干見学にも制約があるんですよね。でも、また行けばいいと思っています。良い季節に行けば、気持ちの良い場所だし、一度訪問済みだと、様子がわかるので、気楽に行きやすくなります。
とにかく早く、遠出がしたいです!

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  1. 2020/03/28(土) 03:17:38|
  2. ロンバルディア・ロマネスク
  3. | コメント:2
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コメント

この彫刻、貼り付け? それとも掘り込み? どちらでしょうか? 洗礼槽そのものは 一つの大きな石のようにみえますけれど。
どちらにしろこの彫刻 好みです。
  1. 2020/03/29(日) 02:24:25 |
  2. URL |
  3. yk #C8Q1CD3g
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし


彫っています。すごく深彫り、というか、ほぼ三次元彫刻です。チロル城の扉口が、かなり飛び出していましたと記憶しますが、これはもっと飛び出してる感じかな。
おっしゃる通り、一つの岩の塊から、作られているようなので、ほぼ三次元彫刻作品的な作り方ですよね。コモの石工の技量を、見せつけられるような作品だと思います。おそらく石を知り尽くしていた人たちなんでしょうね。
  1. 2020/03/29(日) 12:51:34 |
  2. URL |
  3. Notaromanica #-
  4. [ 編集 ]

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