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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

感謝するのは、地盤なのか石工なのか(ソヴァーナ2)

2017年7月 エトルリアを巡りつつロマネスクもちょっぴり、トスカーナとラツィオの旅 その7

ソヴァーナSovana続きです。
村にあるもう一つの教会。こちらは、村のはずれに位置します。というより、あまりの小さな村なので、もともとは門前町的なものであったのかもしれません。

2020 etruria 072

サン・ピエトロ・エ・サン・パオロ大聖堂(カテドラル)Cattedrale di San Pietro e San Paoloです(夏季9-13、15-20 冬季10-13、15-18)。

なんと、司教座がある立派な教会だったのですね。
こじんまりしていますし、こちらも前回紹介のサンタ・マリア同様、外観は、結構変容していて、ロマネスク的な面白さは、ほとんどありません。
でも、起源が大変古いために、ロマネスク以前の教会から引き継いだ装飾アイテムがたくさんあって、これはなかなか面白い場所なんです。

まずは、例によって、3年もたってから、資料を当たって知ったこと、笑。資料と言っても、インターネットをちょっと徘徊しただけですから、大したことではありませんです。でも、ちょっと驚きました。
この、後陣がポイントです。

2020 etruria 073

トスカーナでよく見られる色の凝灰岩。
後陣にある一連窓なんですが、この位置が、とっても天文学。
というのも変ですが、そこまで細かく決まっていたことは、浅学にして知らなかったのですよ。いや、過去にも読んだけど、忘却したのかもしれません。
この教会では、6月21日、夏至の日の曙光が、まっすぐこの窓に差し込み、身廊をスーッと通って、ファサード側の壁にまで届くのだそうです。地下にあるクリプタでも、同様のことが起こると。

しかし、それはローマ教会の規則に反する、ということなんですよ。ローマ教会の規則というのは、教会は東向きであるべき、ということで、なぜ反することになるのか?
ローマ教会では、夏至ではなくて、春分秋分(Equinox、昼と夜の時間が同じ)の日が基本なんだそうです(940-1003在位教皇であるシルベストロII世による)。だから、ローマに従うなら、この窓は、春分秋分の日の曙光が差し込む位置でなければならないわけなんです。
一方で、夏至を基準にするのは、ケルトやゲルマン系、ロンゴバルドの文化なので、起源が初期キリスト教に遡る教会ですから、オリジナルに忠実に、夏至を基準にしたという説。それから、現在の教会の一つ前、7/8世紀の古い教会および洗礼堂(本当のオリジナルは、エトルリア時代の神殿と考えられているそうです)が洗礼者ヨハネにささげられたものであり、そのヨハネの祝日が6月24日であることから、夏至の3日後に訪れるその日を祝したものではないか、という説。

夏至か、春分秋分化、という、わたし的には、どうてもいいっていうか、どっちにしても東向いてるっていうことで、いいんじゃね?程度のことだと思うのですが、教義的には、やっぱり結構重要なことだったりするんですねぇ。

いずれにしても、この窓から入った光が、ファサード側までピーン、と到達するその瞬間というのは、結構感動もんだと思うんで、見てみたいもんではありますよね。

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上の写真の奥の方で光り輝いているのが、件の後陣の一連窓ですよ。結構低い位置にある分、その、夏至の曙光の差し込み方が気になりますよねぇ。

内部も含めて、全体が凝灰岩なんですが、身廊を分ける柱だけは、白黒の石が使われていて、小尾は、多分、後代のものとなるんじゃないでしょうか。ちょっと雰囲気が変わりますよね。

曙光の話から、言及されたクリプタは、かなり素朴な様子です。

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太い円柱、シンプルな柱頭および副柱頭。修復されちゃっていて、若干されすぎちゃってる感も感じるんですけどね、いずれにしても、素朴さはマックス。

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上が、祭壇ですから、東向きだとすると、曙光のさす開口部というのが、ちょっとわからないし、訪問時は、そういう話は知らなかったんで、チェックしてなくて、よくわかりません…。こういう時、すっごく情けなくなります。でも、ここは、おそらく再訪のチャンスがあると思っているので、次回は、是非、きちんと確かめたいと思います。

クリプタは、このようにシンプルなものです。本堂も、構造はシンプルですが、ディテールには、見るべきものが。

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ちょっと面白い柱頭の彫り物があるんですよね。古い時代の名残もしっかりあって。

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初期キリスト教時代の教会の遺構が、そのまま利用されている部分もありますが、ちゃんとロマネスクを反映した彫り物もあるわけです。
すっごく分かりやすいアダムとイブとか。

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これはなんですの?というような、エピソードもんも、あるんです。

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でも、こういうとこだと、どうしても、単純なこういうやつが、なんか愛らしいっていうか、笑。

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同時に、俺たちのことを見てね、という必至な視線を感じたりもするわけです。

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なんか、ここの柱頭一連の、お願い、見てね、的な集中度は、ちょっとすごいですね。皆が同じ方向を向いて、何か訴えている感がすごいっていうのは、今写真で初めて感じて、びっくりしました。
要は、中も入ってなんぼ、の教会なんです。
外は、最初に言ったように、あまり面白みがないのですが、歴史が古いだけあって、古い時代の色々が垣間見える面白さはあるんで、現地にいらしたら、どうぞ、細かいチェックも忘れずに。

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そして、今は側壁側が入り口となっていますが、その扉周りの彫り物が、ちょっと面白いんです。
そちらが入り口になっているというのは、14世紀に、司教館が、ファサードのくっつくように建てられたからだそうなんですが、なにも、そこまでくっつけなくても、と思いますけれどもねぇ。側壁側の、つまり、本来的には予備的扉が、これだけしっかり飾られるということは、ファサードはどうだったんでしょうかね。

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こちらの装飾でも、渦巻き模様や唐草的なロンゴバルドの影響が、多く見られます。いずれにしても、面白くって、かわいらしくって、とっても好ましい浅浮彫密集ですよ。
すっごく浅浮彫。最近、深い彫りのものを見る機会が多かったんで、本来の意味的にも浅浮彫、というところに、かなり惹かれます。

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永遠のシンボル、クジャクがいたり。これもまたロンゴバルドだし、渦巻きやお干菓子的な文様は、いかにも、ですね。はかない感じの浅さが、また何とも。

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一部変に写実が感じられる、騎馬像。
なんですかね。馬の限りなくデフォルメ感。それでいて、変に印象深いつるっぱげ状態な騎士と、縮尺はともかく、リアルな感じの剣と盾。なんか、いろんな意味で時代を感じさせるというか、面白いです。

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もう、こういういかにも、ロンゴバルド的な…。たまりません。

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よくぞ、この浅浮彫で、残ったよね、千年以上。Tufoって、地下に埋まっているときは柔らかいけど、空気に当たると固くなって、だから保存もよいということを聞いたことがあるけれど、そういう石の性質にもよるよね。この地域は、とにかく地面がTufoの上にある感じで、掘ればTufoが出てきちゃう地盤で、だからこそっていうか。
こっちにしてみれば、ほんと、ありがたいことだった、と思うだけです。

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コメント

夏至

前日のギボリウムの彫刻 すばらしいですね。
今日の渦巻き 私は 瞬間的にケルトを思いました。今西フランスロマネスクのHP 作成中ですが、ラヴァルダンのサン・ジュネ教会の柱頭にも大きな渦巻きがありました。
アプシスの窓の位置、夏至の日に光がまっすぐ差し込む、という記述とても興味深かったです。北欧などの夏至祭りも 聖ヨハネと関係があるとみているむきもあります。
ところでアイルランドでみたボイン渓谷の遺跡、ニューグレンジでは冬至の時に光が墓室を照らすようになっていて、ナウス遺跡では 春分、秋分のときに光が差し込む穴が東西にありました。
HPをつくってなくてメモを探すのも大変なので うろ覚えですが、トルコのゴルディオン遺跡でもそういう話を聞いた覚えがあります。もしかしたら、その昔の太陽崇拝のなごり? 
それにしても corsaさんの表現、たのしいです。<お願い、みてね> なんて可愛い、失礼!
ソヴァーナや近くのピティリアーノ(ユダヤ人居留地があるそうですね)に行くツアーに申し込むことを考えたことがあるのですが、、、。
それにしても いつになったら 旅行ができるようになるのでしょうか。私などいよいよ体力的に不可能になってきているというのに。
  1. 2020/05/11(月) 02:04:14 |
  2. URL |
  3. yk #C8Q1CD3g
  4. [ 編集 ]

Re: 夏至

ykさん、いつも見ていただき、ありがとうございます。勝手なことをほざいており、汗顔の至りです…。

> 今日の渦巻き 私は 瞬間的にケルトを思いました。
渦巻きは、確かにケルトにも多く使わていますよね。渦巻きだったり、延々と円を重ねたりとか、永遠の表現のたどり着くところが、同じようなところに落ち着くというのは、当たり前のようでいて、興味深いと思います。

> アプシスの窓の位置、夏至の日に光がまっすぐ差し込む、という記述とても興味深かったです。北欧などの夏至祭りも 聖ヨハネと関係があるとみているむきもあります。
夏至当時と、春分秋分、あちこちで色々基準があるとは、なんとなく認識していたものの、深く考えたことがなかったので、やはりブログ書いているだけでも、気づきという意味で、時差があっても意味はあるかな、と思った次第。面白いですよね。北方で夏至が重要だったとか、すごく分かりますもんね、やっぱり。
太陽崇拝は、古代宗教ではマストですし、結局キリスト教も、太陽神ミトラを無理やり下敷きにしているわけですし、そういう意味では、自然につながる異教がすべてのスタートですね。
アイルランドの古代遺跡、行ってみたいものです。
とにかく、普通に旅ができる日々、望むのはそれだけですね、今となっては。
  1. 2020/05/12(火) 21:26:59 |
  2. URL |
  3. Notaromanica #-
  4. [ 編集 ]

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