2017年7月 エトルリアを巡りつつロマネスクもちょっぴり、トスカーナとラツィオの旅 その8
いつもだと、自分の記憶やメモを参照して、旅の行程に沿って教会を紹介するようにしているのですが、このときの旅は、色々と目的が入り混じっていたので、まずはロマネスクをまとめて、その後、それ以外のことをまとめることとしています。
次は、やはり再訪地です。
トゥスカニアTuscaniaです。ここもまた、通ったら寄らずにはいられない中世の町。ロマネスク時代の教会、それも大変立派な教会が、二つもあるんですから。
で、今回びっくりしたのは、どちらも撮影可となっていたことです。以前訪ねた時は、どちらも撮影禁止の張り紙があり、どちらにも係員というか受付というか、そういう人が入り口に陣取っていたので、なかなか微妙な状況だったんです。いずれにしても、かなりストレスフルと言いますか。
今回は、堂々の撮影。
まずは、町の入り口的なロケーションにあるこちらです。確か前回も、ここから町にアクセスしたように記憶します。
サンタ・マリア・マッジョーレ教会Basilica di Santa Maria Maggiore。
愛想のない後陣ですが、車で町を目指してやってくると、調度この後陣のある道で、グイっと曲がって、教会の左側を通って、町へのアクセスということになります。
ちなみに、教会の入り口側の路肩に、スペースがあり、3台くらいの車が止められるようになっています。
ファサードは、こういう感じでしか撮影ができないのが、この教会の辛いところ、笑。
真正面から全体を撮影することができないので非常に分かりにくいんですよね。装飾がかなりごちゃごちゃしているから、全体を俯瞰出来たらよいのですが。
なぜかというと、ファサードとかなり接近して、やたらにでかい鐘楼が建っているんです。
もうすぐ目の前で、これと教会を合わせて撮影するのも、難しいので、どうしても分かりにくいですね。
この地にもともと作られた教会は、8世紀のものであろうとされているのですが、今ある建物は、12世紀前後に建設されたものです。前後いうのは、いまだに、明確な決定的な証拠は出てこなくて、研究者によって、11世紀から12世紀の終わりまで、可能性が論じられているそうです。この鐘楼も、同時期と考えられているそうですが、となると、実際の建設時期は、やはり幅があります。
とはいえ、教会の建物との比率が変なこと(鐘楼がやたらでかい)、置かれた場所に違和感があることなどから、教会より以前の建物であったのではないか、という説も濃厚。
確かに、12世紀っぽいアーチなどが施されていますが、基部の石積みなどは、ちょっと教会と違うし、もしかすると、ただの物見の塔だったかもしれないですよね。場所も、丘の上に広がる町のふもとというロケーションですから、見張り台としては絶好です。
話を戻して、ファサードです。
かなりごちゃごちゃ感ありますよね。レンガっぽい石積みと、大理石のふたつ遣いも、特徴的です。これは、もう一つの教会でも同様で、なんか気に入っちゃったようです。
ごちゃごちゃしているのは、ちゃんと理由がありまして、この土地、過去に何度も地震に襲われているそうです。その度に、何かが壊れたり、落ちたり、ということがあり、修復や再建が繰り返されることによって、シンメトリーだったものがアシンメトリーになったり、落ちてしまった彫り物が、違う場所に置かれたり、ということらしいんです。
例えば、リュネッタに置かれた聖母は、脚を、リュネッタにはみ出してアーキトラーヴェに置いていますが、これは、実際にあった場所に置かれたものではないということを物語っているとのことです。ではどこにあったのか、それは不明です。
隅切り部分が、特徴的ですよね。細い円柱が組み込まれていて、すっごく繊細な感じで。でも、広がりが開放的だから、普通の隅切りのつぼまり感がないですね。これだけ細い円柱をアーキボルトを支えるのもまれな感じがします。
扉脇の側柱には、それぞれ使徒ピエトロさんとパオロさんが彫りこまれています。下は、カギを持っているのでピエトロさんですね。
両者とも、目線が下で、静かに穏やかに瞑想している風なんです。全身立像で瞑想って、なんかちょっと不思議な。
そしてリュネッタのは、脚を飛び出させた聖母子。
左には、ロバにまたがったBalaam、イサクの犠牲、そして右側に神の子羊アンガス・デイ。
リュネッタの余白あきあきなんですけど…。何ですかね、未完成?聖母子は、ここになかったかもしれないにしても、彫り物もなさそうだし、左側と右側のモチーフのバランスも今一つで、これまた不思議な。
ちなみに、この雌ロバに乗ったBalaamのエピソードって、かなりあちこちで取り上げられているということですが(ブルゴーニュのソーリューやオータン、スペインのハカ、など)、ちゃんと見たことなかったので、ちょっと検索してみました。
イタリア語だと、正直、よくわからず、実際、「Balaamという預言者はヨナやエリアのように有名ではないのに、なぜ中世では、お気に入りのエピソードなのか」とか書かれていて、ますます?でしたので、この際日本語で検索。
それでも、あまりよく分かりませんでした…。読解力がないのか、読む気がないのか…。
というわけで、ご興味がある方は、バラム、雌ロバ、などをキーワードにすると、色々解説が出てきますので、それでよろしくお願いします。
ファサードに戻り、右扉です。
古典的な様式の葉っぱモチーフで飾られています。
アーキボルトの、これでもか、できな葉っぱモチーフ目白押しは、ある意味迫力ありますし、リュネッタ部分の植物と格闘的な様子も、印象的です。なんだろう、これ。
そして、左扉。
こちらは、ノルマンSiculo様式で装飾されていると。確かに、このアーキボルトのモチーフは、北っぽい。リュネッタは二股人魚とグリフォンの競演という感じで、ロマネスク王道というのか、聖書ハズレまくり系というのか、無秩序感、かなり激しいですね。
ファサード上部には、ライオンとグリフォンの間に、9本の円柱と10の小アーチを持つロッジャ。
そして、12の円柱で二重になった豪華なバラ窓。周りに四つの福音書家のフィギュア(鷲=ヨハネ、天使=マッテオ、ライオン=マルコ、ルカ=牛)。
と言っても、ほんと、こういう全部を一堂に撮影できないんですよ、ここ。
本堂に入ります。
古色蒼然、というのが、一番しっくりとする表現でしょうか。
色々時代が交錯していたりするようですが、全体に古臭い感じっていうか、雑然としている感じっていうか、そういう雰囲気なんですよね。奥に見えるチボリオは、ゴシック時代、つまり、われわれにとっては、結構もうどうでもいい時代のものです、笑。でもチボリオに守られているように置かれている祭壇には、ロンゴバルド的な彫り物が見られますので、ここは、しっかりチェックしてくださいね。
右身廊には、洗礼盤。13世紀のもので、全身浸かるタイプの八角形。これは、見るからに立派なブツ。
しかし、何故、これほど唐突に右身廊の真ん中にあるんだか。
もともとの本堂と洗礼堂の関係とか、そういうことかもしれませんね。
ロマネスク的に見るべきは、洗礼槽よりは、説教壇でしょう。
1200年代のもので、中世初期の彫り物等で飾られております。
個人的に大好物です。
とにかく、古い時代の名残はたくさん散らばっていて、見れば見るほど出てくる、するめ状態の楽しさがありますから、じっくり見学するべき教会です。
どれがどの時代のものなのか、俄かには分からなかったりするんですけどね。古代に属するエトルリア系なんかも、当たり前のようにボコボコとある土地柄なんですからね。
せっかく写真が解禁されたのに、以前来た時、嫌になるくらい撮影したからいいや、ととてもストイックに、少ししか撮影せずに、今となって後悔しております。また行かなくちゃ。でも、再訪のとき、撮影できるかどうかは、その時にならないとわからないんですよね。あーあ、大馬鹿。
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2020/05/13(水) 05:20:10 |
ラツィオ・ロマネスク
| コメント:4
オータンのマイHp確認、ちゃんとロバに乗ったバラムが入口の柱頭にありますね。
ところでバラム うろ覚えだったので、あらためて検索。モーゼを呪うよう王から命じられたバラムが王のもとに行く時、バラムには見えない天使がロバには見えて動こうとしなかった、というエピソード、隣のアブラハムは神に従い、子のイサクを生贄として奉げようとした瞬間天使が現れ子羊を出現させた、というエピソード。これ二つでセットで主を信じよ、というメッセージを表しているのだと思いましたが、どうでしょう。
今、西フランスロマネスクのHPをつくっていて、辻佐保子さんの著書を参考にしているのですが、図像プログラムを解釈するにあたって、当時11,2世紀のカタリ派などのキリスト教異端(秘儀の否定など)から教会を擁護しようという意図を読み取っています。それに影響されているせいか、こう考えました。
オータンは残念乍ら 向かって左側の柱頭の写真は撮ってなくてこういう解釈は不可能です。
正面に立ちはだかるような巨大な塔、謎ですね。グーグルマップのストリートヴューでも確認しました。教会とセットで建てられたかどうかがわかればいいのですが、
バラ窓、この車軸みたいなの、あちこちで観たことがあるはずだけれど、どこだかおもい出せません。
しっかり楽しませていただきました。
2020/05/14(木) 02:01:30 |
URL |
yk #C8Q1CD3g
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corsaさん、お元気なご様子嬉しいです。いつも楽しませていただいてなしのつぶてで御免なさい。corsa textは私のバイブルみたいなもの、これからも宜しくお願いいたします。
2020/05/15(金) 00:54:53 |
URL |
ote #TQU6yXy2
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Oteboxさん
見て楽しんでいただけるなら、それだけで嬉しいです。私も、時々お邪魔しているのに、読み逃げしてますから、お互い様です。
元気で生きているだけで、もう僥倖、みたいな世の中になりまして、困ったものですが、千年生きているロマネスクは、決して逃げていかないと思い、我慢の日々ですね。
2020/05/15(金) 18:33:29 |
URL |
Notaromanica #-
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YKさん、素晴らしい解釈をありがとうございます。
聖書に弱くて、どうも、理解できないことが多くて、困ります。これからは、ロバに乗った人を見たら、バラムという選択肢もあり、ということをやっと覚えたかな、というところです、笑。
しかし、そう考えると、無人島に行くなら聖書を持って行く、というのは、すごく正しいかも。大体どんなエピソードも、何言ってんだかわからない話が多くて。つい「聖お兄さん」(漫画)に頼ってしまいます、笑。
2020/05/15(金) 18:36:31 |
URL |
Notaromanica #-
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