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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

またもやミトラ教への興味が…(モワサック その2-タルン・エ・ガロンヌ82)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その103

モワサックMoissacのサン・ピエール修道院教会Ancienne Abbaye Saint-Pierre、続きです。
本日は、特に予定もないのにお休みを取ったので、非常に余裕があり、手持ちの資料に目を通しています。

イタリア、と聞くと、いまだの多くの日本人は、怠け者で食べることと恋愛に夢中で、みたいなイメージがあるかと思うので、ちょっと言っときますが、そのイメージって、日本イコール芸者、サムライというレベルの思い込みに近いと思います。いや、私の知っているイタリアは、主にミラノとその周辺、いわゆる北部イタリアに限るので、それ以外の地域は、若干異なる可能性はあるんですけどね。
ミラノでは、お休みがたまっちゃって、年度末にどんなに忙しくても消化せざるを得ないということは、日常茶飯事なんです。休暇取得は、従業員の権利でもあり、同時に義務でもありますので、既定の有給休暇は、なんとしても取得しなければなりません。私の場合は、年間休暇が29日ありまして、これまではため放題だったのですが、今はちゃんと取得しないと、権利消失の可能性が出てきたのです。とはいえ、今年前半は、あまりの忙しさのため、一日たりと取得できていないので、半年で29日消化しなければならず、それで、プライベートの予定がなくとも、業務上、不在でも問題ない日を優先的に休まないと、とても消化できない、ということになってしまったのです。
この辺のことは、今度まとめて書いておこうかな、と思います。日本とは制度も運用もすごく違うのですが、イタリア人のメンタル、結構日本的なものもあるということは、あまり誰も言ってくれないので…。

おっと、脱線しすぎですね。これも、余裕があるゆえんです、笑。
では、タンパンを解説付きで見ていきたいと思います。

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壮大な作品です。
タンパンが、開口部とほぼ同じ大きさありますね。サイズは、6.5mx3.5m。この大きさは、同時代のタンパンとして最大のものとされているようです(すでに消失しているクリュニーのタンパンが、ほぼ同サイズだったらしいです)。
この大きな作品は、石灰岩の23のブロックがつなぎ合わされたものということで、クローズアップすると、確かに、垂直方向のつなぎ目は、しっかりとわかります。

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いきなりディテールに入りますが、これ、アーキトレーブのすぐ上に並んでいる、長老たちの段です。
二人の長老の両脇に、縦線が見えますが、これがつなぎ目のようです。
水平方向のつなぎ目は、波型の帯装飾を置くことで、隠されています。

で、彫り物はブロックごとに工房でなされて、それを組み立てた、という形なんだそうです。
これだけの作品だと、大体そういう作りになるんですかね。フィギュアがキツキツの中にあると、彫るのも大変でしょうから、その方が細かいところまで行けるように思いますし。

こういう、作成の技術的な話というのは、実は結構好きなのですが、一般的な解説では、美術に偏ることが多くて、そういう土木技術系の話がなかなか出てこないんですよねぇ。そこまで広げられないとはいえ、石の出自とか、運搬経路とか方法とか、そういう話って、さらりとは知りたいといつも思うんですけどね。

さて、このタンパンのテーマはサン・ジョバンニ、つまりヨハネの黙示録です。全体のクローズアップはこういう様子になっています。

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で、長老がずらりと並んでいるわけなんですが、まずはここから見ていきますね。
上の全体像で見ると、下段に14人、中段に6人、そして、てっぺんに近い方に4人。左右シンメトリーな数で配置されています。

一見して、どの人物も類型的な様子ですが、実は、衣についても、態度についても、すべて微妙に異なるという、石工さんの努力が…。

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遠目では見えませんし、実際現場にいても、ここまで見えてなかったし見てなかったと思います。常にオペラグラスを持っていたはずですが、タンパンは、比較的近いので、そこで細部まで観察した記憶なくて…。
でも、こうしてみると、すごいですよね、この細かさ。
他のタンパンでもありましたが、この、まるでビザンチンの宝飾類のようなきらびやかな装飾の彫り物は、改めて驚かされます。

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それが、一人ひとり違うっていうんですから、なんというこだわり!

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長老たちは、手に、グラス、そして、ヴィエールという中世の弦楽器を持っています。これは、弓で弾くものと手回しのものがある楽器だそうです。

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手回しでどう鳴らすのか、想像もつきません。この様子では、ヴァイオリンの原型的な、弓で弾くタイプに見えますが、でも誰も弓を持ってないんですよね。

ちなみにですが、ディテールは本当にすごくて、長老が腰かけている椅子の装飾まで、こんなキラキラです。

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マージナルな部分から入りましたが、タンパン中央部のキリストに行きましょう。

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中央にキリスト、周囲に四福音書家のシンボル、そして、布をひらひらさせた二人の天使、という構図です。いわゆるアーモンドの中の玉座に腰掛けるスタイルですが、ここではアーモンドの形がはっきりとは彫られていません。解説ではバーチャルなアーモンドとあったのですが、頭の方の光背の後ろのとんがった部分だけがあるので、そこをただるように、キリストの周囲にいる四人の福音書家が、身をくねらせて、アーモンドの楕円を描くようにしている様子が、バーチャルな、ということなのかと思いました。

解説によりますと、玉座の縁取り、光背、十字架、翼などのアイテムは、全体に、かなりの浅彫りとなっているが、各フィギュアの頭部だけが、非常に深彫りとなっていて、土台から激しく飛び出しています。
正面の写真だと分かりにくいので、ちょっと横から撮ったもの。

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分かりますかね。確かに、浅彫りと深彫りが混じっていて、特に頭部については、ほとんど独立した彫刻状態になっていますよね。
長老たちは、全身がとても深く彫られていて、頭部についてもそうですが、これは飛び出し効果を狙った石工の表現ではないか、とあります。要は3D効果ということになるんでしょうかね、新しい!

そういう表現を多用しながらも、でも全体の統一感を崩さないように細心の注意が払われているとあるのは、やはり画面を埋めるための装飾性や、邪魔しないための浅彫りということになるのでしょうか。

解説で、えっと思ったのが、ミトラ教への言及です。

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キリストの右下にいるルカのシンボル雄牛ですが、この、弓なりの雄牛の様子が、ミトラ神に捧げられた雄牛を彷彿とさせるとあって、なぜいきなりミトラ神?

ミトラ教は、キリスト教前に非常に普及していたらしい、キリスト教からいえば異教、要は古代宗教の一つ、太陽信仰系のやつらしいんですが、資料が全くないのです。ローマには、主に地下に、ミトラ神殿の遺跡がいくつか残されており、私も数年前に訪ねたことがあります。確かブログにも書いたと思いますが、大変興味深いものでした。キリスト教普及のために、ミトラ信仰を利用するなど、キリスト教のうまさが見えるという意味でも面白いのですけれど…。
ただ、そういう流れから、なんとなくミトラは、イタリア半島に普及していたもの、と勝手に思い込んでいたのですが、半島のみならず、ローマ帝国内で信仰されていたということになるのですね、おそらく。
それにしても、唐突な感じで、よくわかりません。

最後にですが、前回、ライトアップの様子をアップしましたが、このタンパンが彩色されていたことは、規定事実となります。彩色跡が、一部見られます。

これだけの彫りをして、さらに彩色って無駄にも思えますが、当時、絵の具は高価なものだったと思いますから、やはりどれだけ金をかけたかが目に見える施工だったということかとも思います。ロマネスク時代の何でもかんでも、どこでもかでも彩色、というのは、そういう意味ではありえないのだと思っています。彫るのは、地元の石工さんが見よう見まねでもできるけれど、石に彩色できるような絵の具はおそらく簡単には入手できないはず。
そして往時の人にとって見れば、はっきりした色というのは、本当に高価な顔料でなければ出せなかったものと思うし、明確な色であるほど、誇らしかったのかな、と思ったり。
時代が変わるって、多分そういうことでもあって、面白いですね。

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  1. 2021/06/11(金) 11:55:07|
  2. ミディ・ピレネー・ロマネスク 31-81-82-46-12-48
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