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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

憂愁のエレミアのダンス(モワサック その3-タルン・エ・ガロンヌ82)

2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その104

モワサックMoissacのサン・ピエール修道院教会Ancienne Abbaye Saint-Pierre、続きです。
モワサックを訪れる多くのロマネスク・ファンが、最も気にしているのは、前回紹介したタンパンではなく、そのタンパンを支える位置に置かれた人の彫像のはずで、正直、私もそっちの方でした。

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ボーリューとか、同じ構造ですよね、この大きな扉を支える真ん中の柱。ここに、彫られている彫刻が、モワサックの教会では、おそらく最も有名なもの。

扉に向かって、左側の面に、サン・パオロさん、そして、正面には、ライオンがたくさん、そして、右側が、その超有名なお方、この人です。

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写真をトリミングしているからますます長く見えますけれど、実際長いんです。こんな柱に一本彫りっていうか、スイヤックなどよりさらに印象的な彫りものになっていると思います。脚、長すぎん?西洋人全般、腰高で脚長いですけど、これはちょっと~…。
これは、旧約世界の預言者エレミアさんとされております。

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この手の、高度な技術のたまものって、もうご存じとは思いますが、私はあまり得意じゃなくて、目が離せないというような気持ちにもなれないんですが、このエレミアさんのすごいのは、とにかく保存状態、めっちゃいい。ほぼ完璧ですよ、コンディション。扉口なんて、それも、手の届き場所にあって、簡単に壊されそうな位置なのに、これはすごいです。まぁ、でかいんで、一部壊せるかと言えば、難しい話ではあるんですが。

解説には、思わずクスリとしながら同意してしまった、著者のとても主観的な文がありました。が、これ、定説なんですかね。
「交差した長い脚で、あたかも、教会からダンスのステップを踏みながら、出ようとしているように見える」。

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どうですか、踊ってますかね。
この文、私が書いたなら、いかにもって感じでしょう。でも、ちょっと変なのは、こう書きながら、そのメランコニックな表情に言及しているわけです。
「頭を傾け、長い髪、そして髭は、繊細な様子で波打ちながら垂れ下がっている。メランコニックな(おそらく、両目が、そして半分閉じられた瞼が、わずかにアシンメトリーなことが、そういうイメージを与える)視線」。
確かに、何とも言えず、憂愁漂う表情しています。なら、ダンスのステップはおかしいだろう、と。
でね、どうせおかしいなら、付け足しときたいですが、この優雅なおみ足に対して、くるんと丸めた左手は何ですか?ということです。
なんなら、えくぼとかあっても不思議じゃないようなふくよかな手の甲で、この肉付きの薄い筋肉、いや、骨と皮的な下半身に対して、えくぼの手はちょっとおかしいのじゃないか、と言いたいわけですよ。って、力を込めても仕方ないですけど。

この憂愁の表情は、無限の解釈があるそうで、エレミアさんの言葉を知らない私には、そもそも想像もできないのですが(数年前に岩波文庫のエレミア書購入済みで、先日発掘。28ページ目にしおりが挟んであったので、そこまでは読んだらしいです、数年前に…)、主な解釈としては、「キリストによる新約聖書を知ることがなかった無念さ、エルサレムで待っている不運の予兆、または、単純に、平和な教会を離れて外の世界の辛さに立ち向かう人々への同情」だそうです。

ちなみに、背中越しの反対側にいるパオロさんの表情はどうかというと。

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目がかっと開かれて、なんかすごく決然とした断固とした様子で、迷いがないです。入り口で信者を向かい入れるフィギュアとして、エレミアの憂愁は、こうなると気になります。なにを言いたかったんだろうか。

正面は、動物フィギュア盛り合わせです。

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ちなみに、人が写っているのでわかりやすいと思いますが、3.52mx0.72m、厚みが0.49mとなります。パオロやエレミアの人物像は、水色シャツのおじさんの頭の位置くらいに足があるような配置なので、ほぼ等身大といってよい大きさとなるようですね。これは大理石の一つの塊を丸彫りということらしいので、石工というより、彫刻家の仕事ですね。三面に彫るって、すごい技術だと思います。

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遠目には、羽みたいにも見えますが、これはライオンたちでした。
「雄と雌のライオンの三組のつがい、注意深い視線、そしてあえいでいる様子の口元。聖所への入り口を守る様子が明らかである」。
ナルテックスの柱を支えるライオンと同じお役目をしているのですね。

それにしても、今気づいたのですが、カップルのからみ方が、エッシャー入っていると思います。三次元なのに二次元に置き換えていて、これはすごく高度な図像なのではないでしょうか。
いろんな意味で、ここの石工さん、やはりただものではなさそうです。

この扉周辺は、かなりの数の彫り物があり、もう全部なんて、とても紹介できないので、あとは適当に行ってみます。
扉の両脇の方に、こっそりとピエトロさんがカギを大事そうに抱えています。

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ボーリューでも同じ位置にひっそりいた感じでしたよね?
対照になる位置には、預言者イザヤがいるようですが、それも同じだったかな?

あと、扉に向いてる横壁構造があって、これもボーリュー同様なんですが、ここは保存状態が、だんちがいにいいです。何で、これほどよく残っているのでしょう
か。

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上の赤で囲った部分です。
西側、上だと左側部分になると思います。

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ラザロと、腹黒い金持ちというテーマの一連の彫り物。
金持ちがアーチの下で、妻と食卓に着いています。食卓は用意され、大きなパンの塊を切り、料理を受け取っています。妻はがつがつと食べ、給仕人がワインを運びます。一方、哀れなラザロは外にいて、身体が膿でおおわれ、死にそうな状態でいます。犬が哀れに思って、ラザロの身体をなめて、慰めています。天使が、その魂を、アブラハムの胸に預けます。

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これは、その下にあったのかな。色欲で、お隣には、貪欲の視覚化があったはず。
毛深く醜い悪魔が、女性の方を向いており、その口からはヒキガエルが飛び出しています。裸の女性は、脚を交差させ、受け入れるポーズ(対照する反対側の位置に、受胎告知の聖母の像が、同じようなポーズを取っています)、同時に、苦しむジェスチャーが見られます(こぶしを握り締めている)。二匹の蛇が、その体に巻き付き、胸にかみついており、またヒキガエルが局部にかみついています。女性と悪魔の間には、イヴを誘惑したと似た蛇がいます。

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なるほど、これが対象となる受胎告知の図ですね。面白い構造になっています。解説を読まなければ、絶対に気付かないことですが、4年後に読んでもなぁ、笑。

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東側の面には、どうやら新約聖書のエピソードが彫られていたようです。

解説を読むのは、確かに面白くて、勉強になります。というわけで、本日も、フランス語を翻訳しながらだったので、えらく時間がかかって、えらく疲れてしまいました。やはり、現場でそのくらいわかると、ふんふん、と面白さが違うのだとは思います、そこまで勉強してみるのも、なんか違うような気もしますし。

解説を読んで、改めて思いましたが、聖書にかかわる内容になると、やはり聖書の内容を熟知すること、それぞれの人々の人生や思想を知ることは欠かせないわけで、そうなると、ちょっと私の方向性とは違うものとなるので、やはりそこまではいいかな、と思いました。
でも、石工さんや棟梁の思想が見える図像とか表現方法というのは、なかなか面白いので、たとえ後付であっても、やはりこうやって見返す意義は大きいです。

私の好みは、こういうやつです。

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これほどシリアスな仕事の中に、こっそり、いや、割と堂々といるんだから、本当に嬉しくなってしまいます。

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どういうバランス感覚持っているんでしょうね。

この扉口付近だけでも、相当の枚数の写真を撮影しており、それでも、細部を見だすと、全然足りない、という感覚ではあるのですが、一応解説に沿って、選んだあとで、あ、こんな写真もあった!と見つけては、入れ替えしたりなんだりで、枚数を撮れば撮るほど、まとめる作業がとんでもないことになります。
だんだん面倒になってきて、もうどうでもいいや、と端折ろうとしたんですが、でも、読み始めると、やはりついつい面白くなってきて、本日も、2時間コースでした。将来の自分にとって、面白いものになるだろう、という期待がありますが、どなたかの役にも立てば、さらに嬉しいんですけどね。どうなんだろうか。

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モワサック、まだまだ先長いです。

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  1. 2021/06/12(土) 17:51:58|
  2. ミディ・ピレネー・ロマネスク 31-81-82-46-12-48
  3. | コメント:0
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