2017.08.ミディピレネー及びオーベルニュはカンタルの旅、その106
モワサックMoissacのサン・ピエール修道院教会Ancienne Abbaye Saint-Pierre、続きです。
回廊、前回は、角っこに注目しましたが、今回は、ずらりと並ぶ柱部分を見ていきます。

ぱっと見でも、ボリューム感って、分かりますよね。
東西南北の四面、それぞれにずらりと円柱が並ぶこと、何本になるのでしょうか。柱頭は、合計で76ということですが、円柱は、シングルとダブルが交互に置かれているので、76本よりは相当数が多いことになります。
それら円柱は、おそらく古代遺跡から持ってきた素材の再利用ということらしいです。このサイズ感なら、再利用もやりやすいはず。灰色、ピンク、紫、緑または白の大理石ということです。普通に考えれば、ローマの遺跡なんだろうかと思うのですが、それぞれの起源がたどれれば、面白そうな気がします。全部が一か所からきているということはないでしょうし、もちろん地域原産の大理石もありそうな気もしますしね。そういう研究をしている人はいるんだろうな。
さて、話を戻しまして、柱頭ですが、これは、石灰岩または大理石が素材となっています。円柱がシングルの場合とダブルの場合で、柱頭の様子は違ってきます。

柱が一本だと、そこがきゅっとしまったシャープな逆三角形になり、二連柱の場合は、底辺がゆったりした台形になるということです。
いずれにしても、普通の柱頭のイメージよりは逆三角形のインパクトが強く、一つの解説には、「モワサック独特のもの」とありましたが、この結構シャープな逆三、私は南チロルのチロル城を彷彿としました。
チロル城は、お城ですが、ロマネスク時代の彫り物のすごいのがたくさんあって、窓に置かれた円柱状の柱頭が、もうちょっとゆりかご的な丸みがあったかもしれませんが、逆三角形的なスタイルだったのでは。
研究者に反論するわけではないですが、そして他の記事でも言及したかと思いますが、フランスは中世研究が最も進んでいる国ですが、自国にあるもの中心で、なんでも、フランス起源とか、ここにしかないとか言いたがる傾向が強いようなので、あまり当たり前のように、「モワサック独特」とか言われると、眉唾な気がしちゃう天邪鬼なわたくし、というわけです、笑。
また、話を戻しまして、全柱頭76のうち46に、聖書や聖人のエピソードが表されているということです。
手元に、回廊図とそれぞれの柱頭のテーマが書かれた図版があるのですが、なんか、置かれ方が順不同な様子もします。そんなこともないのかな。

本堂から最初にアクセスするのは、西北角となりますが、その西側回廊。最初にアブラハムの犠牲があり、そのいくつか後にあるのが、ダニエルさん。このダニエルさん、手、特に指の部分が、縮尺的にやけにでかいですよね?もしかして、シザー・ハンズ状態の何かかと思って、拡大で見直してしまいました、笑。普通に手、でした。指の繊細さを強調したかったのかな。
もとい、裏側には、羊飼いのお告げ。

解説によると、この二つの場面が、一つの柱頭の面に彫られているのは、御托身の謎について考えるよういざなうもの(托身、受肉=三位一体の子なる神が、キリストという人間性を取ったこと)、ということです。ダニエルの人生は、キリストのそれの前兆で、ダニエルが預言した救世主の出現が、天使によって羊飼いに告げられました。
このお告げで、天使が、十字の記された円盤みたいな、なんというか、おはじきの大きいやつっていうか、なんかそんなのを差し出しているんですよね。受肉したキリストの出現を具現化する印とかなんとか。そういうもんなんですね。
かと思うと、こんな柱頭があります。

解説「人と幻獣。裸の男の姿は、図像学的には古代の彫像を彷彿とさせる図像だが、二羽の鳥を別々に抱え込んでいるが、それら鳥の尾じゃ、まるで蛇のように、ぐるぐるしていて、男に巻き付ています。シンメトリーは完璧で、図像の構図が、柱頭のスペースにぴったりしています。ぎっしりと彫りこみがあるわけではなく、何もない背景と彫りこみ部分のバランスも良く、この前にある一連の柱頭とは異なるテイスト。」
聖書とか無関係で、寓意的なものを、柱頭のスペースを考慮して、デザイン的に施した職人的な仕事だということになるのかな。

職人的な仕事といえば、このタイプなんか、典型ですよね。すごい技術力を誇っている様子です。
なんとなく、普通はもうちょっと、旧約があって、新薬があって、変な内容のがあって、みたいなイメージなんですが、ここは、割と順不同な様子が感じられたわけなんですが、全体で見ると、それなりに統一感はあるのかなぁ。
数があり過ぎるから、どうしても植物モチーフとかもたくさん入れないと、無理、みたいなこともあったのかなぁ。
細かく見ていくと、この項、一生終わらないと思うので、ちょっと気になるようなやつだけ、アップします。

これは副柱頭の部分だと思いますが、独創的です。このぷっくりした顔はなに?
多分、同じ柱頭の他の面ですかね、副柱頭では、やはりぷっくりした顔を持つ天使がいて、本体は、これ、なんでしょう。アレクサンダーの昇天とかあるやつかな。殉教の図になるのかな、もしかして。

ちょっと派手な演出で、やっちゃった感も感じられるんですけど。

この副柱頭的な場所に置かれた天使ペア、他にもあって、なんかよい味です。
この柱頭は、「窯の中の三人のユダヤ人」というテーマで、各面、同じ様子なんですけれども、ダニエル書に書かれたエピソードらしいです。「三人のユダヤ人の若者が断罪され、生きたまま焼かれるという刑を王から受けたが、祈りによって救われた。中央には天にも届く火があり、火の脇に、祈る若い殉教者のあげられた手がある。天はまるで劇場の幕が上がるように現れ、アーモンドや王冠を持った天使が、現れる。この世の試練に打ち勝って、神への信頼を守り抜いたものには、永遠の命が授けられる。スタイルが、サン・セルナンで活躍した石工のものに酷似しており、とすると、11世紀後半のものとなろう。」
なんだかんだ、ここは、サン・セルナンと共通するものがたくさんあるということらしいです。
前回紹介した角っこの使徒の彫り物も、その後、サン・セルナンの浮彫を確認したところ、確かにまったく同じタイプでした。石工や工房の共通なのか、その時その時代に流行していたモチーフや技術だったのか、さてね。モワサックとトゥールーズ、距離的にはかなり近いですから、同じ人たちが働いていた可能性は、いずれにしても相当高いと思われます。
はっ。
一生終わらないといったばかりなのに、また解説を読んでいました。
もうやめて、自分の印象だけ、つづります。本当に一生終わらなくなるので。

西郷どんに似た人。おなかの出具合も程よし。それにしても、柔軟性はすごいですね。こう見えて、開脚18度行けますよね、このおやじ。
おなじみの動物たちも、ちんまりとした彫りで、あちこちにいて、これは、拡大で見ると楽しいです。



こういう細かいところを見ていくと、伝統的なものと、割とデザイン性の高いシンプルな線のものと、混じっていますね。柱頭の方も、そういう感じで分かれるようですし、これは、時代が結構混じっているということでもあるのか。色々謎もありますね。
ちょっと写真の数が多すぎて、とてもまとまりませんので、一旦切ります。これじゃ半端過ぎて終われません…。
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- 2021/06/20(日) 12:19:09|
- ミディ・ピレネー・ロマネスク 31-81-82-46-12-48
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