2021フオリサローネ 番外その1
前回、市営プールの記事で、ちょろっと言及したマウリツィオ・カッテランというアーティストですが、この夏から、我が家最寄りの、そして個人的にはミラノで最も好きな美術館で、展覧会が開催されているんです。

ピレッリ・ハンガービコッカPirelli HangarBicocca
Via Chiesa 2 Milan
過去にも何度か言及していると思いますが、ここはタイヤで有名なピレリ社の工場跡地を現代美術館に転用したもので、ミラノ市の北部郊外にあります。
この地域は、一応ミラノ市内ではありますが、市街地とは完全に途切れており、ヨーロッパ北部へ向かう光速度悪露へのアクセスも良いなどの理由で、かつては、ピレリ社以外にも、多数の工場やメーカー系の会社があった土地です。しかし近年、ミラノ市の人口が増えるとともに市街地がここまで迫ってくる中で、再開発地域となり、多くの会社が、工場を閉鎖したり住居や他施設へ転用したり、ということが行われて、今では大学や劇場も作られ、新興の住居ビルとともに、新しい文化的な町に変貌しています。
そういう中で、このハンガーは、かなり早い時期に美術館に転用されたもので、まだ常設しかなかった初期のころから、定期的に通っている次第。なんといっても、無料なのが嬉しいですよ。
ピレッリ社は、数年前に中国企業に買われて中国企業となってしまいましたが、幸い、ピレッリ財団はそのまま残されました。どういう形で運営されているのか知りませんが、とにかく開館当初から無料を貫いております。それなのに、展覧会の旅に、とてもお手頃なボリューム、内容の小冊子もくださるという、有料の美術館でも今やなかなかないサービスを提供してくれています。
展示会場には、スタッフが数人いて、フリーの質問に的確に答えてくれますし、ガイドツアーも適宜実施されています。
という、まったく稀有な美術館が、自宅最寄り、というのは、実にありがたいことです。車で10分弱程度で、駐車もし放題なので、買い物や用事などのついでに、ちょっと寄ることができるんです。
が。今回は、そういうわけにいきませんでした。
そういう気持ちで気楽に行ったところ、今年際オープンしてからは予約制になりました、ということで、撃退されてしまったのです。周囲に同様の人多数いました。
一旦帰宅して、約1時間後の予約をしてから、再び出かけることになりましたが、なんせ10分ですからね、問題なしです。
前置きが長くなってすみませんが、そういうわけで、以下、カッテランです。
Maurizio Cattelan
Breath Ghosts Blind

手前に、別の展覧会がありましたが、それはとりあえず無視して、奥にあるカッテランの会場へ、暗幕をくぐって入ったら、ほぼ暗闇。その中、一点だけにスポットライトが充てられていて、遠目にもやばい感じの不穏な眺め…。
スポットライトの周りを取り囲む見学者の姿が浮かび上がる、それすらが、何かまがまがしいような…。

Breath, 2021
横たわっている人と、その連れらしいワンコでした。
近付いたら、なんかさらに怖くて、皆が結構遠巻きに見てしまうのもわかります。
なんかね、なんか分からないけど、近寄りがたい何かがありました。

勇気を出して、近寄ってみたけど、なんかマテリアルすらよくわからなかったです。つやつやしていて、本当の柔らかそうな毛にも見えたし。
でも、今解説を読んだら、カッラーラ産大理石という非常に高価なマテリアルを使った本気の彫刻でした。
カッラーラ産大理石は、ミケランジェロもベルニーニもカノーヴァも、時代を超えて愛されている素材です。現代の、それも素材で勝負するようなタイプでないカッテランが、わざわざ使う理由は、素材勝負ではもちろんなくて、そういう普遍性の高い高価な材料、というところにポイントがあるようです。
美術館でいただいた冊子の解説は、なかなか良いと思いましたが、作品は作品に語ってもらえばよいので、ここでは触れません。カッテランは日本でも展示されてことありますから、検索すれば日本語情報も結構出てくると思います。
先に進んで、さらにぞーっと…。

Ghosts, 2021
ここもまた、ほぼ暗闇です。鳥目の人だと、歩くのもおぼつかないくらいかも。で、がらんとしているので、あれ?なんだっけ?と思うのですが、一瞬後に気付きます。ぼんやりした明りに浮かび上がる鳩の姿…。

ここ、工場だっただけあって、とにかく巨大なんですよ。縦も横も高さも。特にこの高さ、これはインスタレーション系の現代美術の展示にとっては、得難いものだと思います。
そして、柱意外に遮るもののないオープンスペースの迫力もすごいんです。
通常なら、ここはメインの展示スペースとなって、かなり大きな作品がいくつも並べられるだけの広さがるのですが、この作品は、壁、天井、梁に作品が…。

ある程度の年齢の方なら、必ずやヒッチコックの「鳥」を見ていると思いますが、やはりどうしてもあれを印象してしまいます。シーンとしているのが、さらに怖いですよ。これだけの鳥の数に対して、暗闇を一人で歩く心細さ。

小冊子を見て思い出しましたが、インスタレーション、ベネチアのビエンナーレでも見てます。

Others, 2011
Biennnale di Venezia
過去記事を見たら、ヒッチコックの鳥が連想されて怖かった、という非常にありがちなコメントが書いてありましたが、今回のハンガーの展示に比べたら、明るいし、怖さのレベル、全然違います、笑。
1997年に、ベネチアで展示されたのが、最初だったとあります。それは見たのか見てないのか、おそらく見てないと思いますけれど、その時のタイトルはTouristsだったということ。リョコウバトのイメージなのかな。そして、Othersときて、今回はGhost。さて、何が読み取れますでしょうか。
最後、この広い暗闇スペースの先に、ちょっと区切りのある別スペースがあります。これまたたまげました。

Blind, 2021
程よく人がいるので、作品の巨大さが分かると思います。
なんじゃこりゃ、と思いながら、上を見上げながら回りだすと、あ…

一目見てピンとこない自分の頭の悪さよ、と思いましたわ。
こりは、どう見ても9.11の世界であろう。あまりに直接的な気もするから、もしかして全然別発想があるのかもしれないけど、でもどう見ても…。
この作品は、今回の展覧会が初めての公開になるそうです。9.11からちょうど10年ということもあったのかもね。ちなみに、アーティストは、90年代にニューヨークに移り、同地で活動しています。その後はミラノとニューヨークを行ったり来たりで暮らしているようですが、9.11当時はニューヨークにいたかもしれないですね。
今回、初めて経歴をちゃんと知ったので、ちょっと記しておこうと思います。
カッテランは1960年パドヴァ生まれ。実はもっと年齢が上の人と勝手に思っていました。わたしが、初めてカッテランの作品を見たのは、いや、少なくともあれはカッテランだったんだ、と認識した作品は、2004年、トリノ郊外にあるリヴォリの現代美術館でしたが、すでに90年代からベネチア・ビエンナーレには出品していたようなので、そちらでもすでに何かを目にしていたのかもしれません。
とすると、30代から活躍していたということになるわけで、その特異な作品内容を考えると、すごいことですね。
日本では、横浜のトリエンナーレなどに出品しているようですが、何を持って行ったのかなぁ。とにかくやばいというとか、気持ち悪かったり、こんなんあり?だったり、一歩間違えると単に奇をてらってるだけじゃん、みたいな作品が多いんですけど、すごく印象に残るし、単純に怖い面白いということで、私は好きなアーティストです。

特に今回のような、壮大な作品、こういう特殊な入れ物でしか表現できないインスタレーションというのは良いです。
会期は長く、来年2月までやっているので、もう一度くらい行ってしまいそうです。
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- 2021/09/25(土) 11:36:39|
- ミラノ・フオリサローネ
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