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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

リベラル・アーツの源流(ロシェ37、その1)

2019年8月夏休み、フランス中部の旅、その69(アンドル・エ・シェール)

この日最後に訪ねたのは、実は前夜宿泊した村の教会です。宿泊日、教会が開いている時間にたどり着けず、そしてこの日も例にもれず、教会が開く前の早朝出発で、結局最後に滑り込み、というスケジュールとなりました。
実際、宿泊する町村での教会見学、こういうことになりがちで、結構難しかったりします。

例によっての余談です。
そういう事情で時間が押せ押せの上に、とにかくここで見ておかなければ、もうチャンスはない、という状況だったので、ちょっと焦っておりました。ここ、城壁に囲まれた町なので、教会へのアクセスは徒歩となります。幸い、駐車場はすぐに見つかったのですが、間違えずに最短の道で行きたかったので、通りすがりの女性に声をかけたんです。とても感じの良い方で、「教会?ちょっと分かりにくいから、一緒に行きましょう!」と。
フランス語の会話だったんですが、秋田秋田と出てくるので、日本の秋田に行ったことがあるのか、なんで?お祭り好き?とか頓珍漢な理解をして、苦しかったのですが、会話が続くうちに、秋田犬が大好きで飼っている、という話だということが分かりましたとさ、笑。それで、最後はなんとなく話の帳尻を合わせることが出来ました。ほんの数分だったけど、脳が異常に疲れましたわ。
でも、こういうことって、異常に記憶に残るね、びっくりする。

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ロシェLochesのサン・トゥルス教会Eglise Saint-Oursです(毎日9時から20時)。

ロシェの旧市街は、城壁に囲まれた町特有の、細い路地が迷路のようになっている構造なので、この教会も、迷路の先に唐突に出現する様子で、全体像を拝むのは難しい。ただ、このファサード見て、大きな期待は持てないですよね。なんて言ってますが、実はそれは大きな間違いでした。
現地で撮影しておいた解説版があったので、また読んでみます。お退屈さまですが、色々と勉強になる案内でした。

「ノートル・ダム参事会教会として、有名なフルク・ネッラ(*注)の父であるアンジュー伯 ジェフロイ・グリセゴネルによって、965年に建立されたものが元となっている。」

(注:私はフランス史は全く門外漢なので、Wikiを見たのですが、アンジュ―伯フルク・ネッラという人は、中世期における城の建築家としてのパイオニアとされている方のようです。地元であるロワールの谷に、およそ100ほども作ったとか。ロワール川流域は、数々のお城があることで有名だと思うのですが、もとはと言えばこの方なんですねぇ。歴史は、マクロで見ることでの面白さと同時に、こういったミクロな切り取りも面白いものです。が、すべてを勉強する時間も頭脳もないのが残念…)。

「そのノートルダム参事会教会は、貴重な聖遺物である聖母マリアのベルトを保管するために建てられました。11世紀に建てられたものが12世紀に拡張されました。
この建物には 3 つの注目すべき建築アイテムがあります。
主塔の建設と同時代の 11 世紀の塔と一体化したポーチ、中世の自由学芸(*注)の表現として優れた 12 世紀の多色彫刻で装飾された扉口、そして身廊を覆う 2 つの中空の八角錐です。」

(注:原文にあるarts liberauxは、自動翻訳だとリベラル・アーツと文字通りに訳されてしまい、なんのこっちゃ、となります。イタリア語で確認したところ、「中世の自由学芸で、三学四科をさす」とあり、中世の三学とは、文法、弁証、修辞であり、四科とは、算術、幾何、天文、音楽ということです。ギリシャやローマ起源のものらしいですが、最初に言葉があるところに、西洋の文化を感じさせられます。やっぱり、解説を読むのって勉強になるよねえ。ってか、こういうことやりながら、無知すぎやろう、オレ?と反省します。)

「地元では「デュベdubes」と呼ばれるこれらのピラミッドは、フランスにおける唯一のアイテムを形作っています。
フランス革命中、参事会教会はサントゥルズ教区教会となり、現在は破壊された教会の地位と遺産を引き継ぎました。」

なかなか面白いですよね。
ま、現地では、「結構無理してわざわざ来たけど、はしょってもよかったんじゃね?」くらいに思っていたわけで、大反省です、笑。

では、ポーチに隠されている、おそらくこの教会一番の見どころである扉口を見ます。

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「1150 年から 1160 年にかけて建てられたロシュ参事会教会のナルテックスは、最初の西洋ゴシック様式の丸天井の 1 つで覆われています。このとてもクーポラ状となった丸天井は、キーストーンがさまざまな花のモチーフで装飾されている大きなリブの断面によって構成されています。
短い柱の柱頭には、内側と外側の両方に、アカンサスの葉、葉の巻物、モンスター、また、より現実的なシーンなどが表されています。扉の半円形アーチと、ヴォルトの最初の分断されたアーチの間の領域はレリーフで装飾されていますが、残念なことにひどく切断されています。しかし、私たちは次のように認識しています。

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A.荘厳な聖母が幼子を膝の上に抱いています。
B,聖ヨセフは聖母のように栄光の玉座に座っています。

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C.三人のマギの王は同じ毛布の下で寝ています。

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D.賢者たちにヘロデのもとに戻らないように警告する天使。
E.幼子である神の前で崇拝する賢者たち。

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これらのレリーフは、おそらくナルテックス建設以来、不格好に占めていた場所の上の、より広い場所に計画されたもので、4 つの柱像と、聖ペテロ (鍵を持つ) とアロンを表す 2 つの大きな彫像が添えられています。これらは、イル・ド・フランスの彫像柱門の彫刻と比較されるべきです。」

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なまじ色あせた彩色が遺っているだけに、傷んだ様子が増長されているような様子もあり、痛々しい状態です。そして、これもまた革命の狼藉だと思われますが、ほとんどの像のお顔がなくなっているのも、それを増幅させていますよね。これは、修復しようにもどうしようもなさそうな状態で、残念でしかないです。

一方で、アーキボルトの方は、彫刻満載状態なんですが、なかなか保存状態が良いものも多くて、ディテールを見ていくのがなかなか楽しいことになっています。

「扉口の 3 つのアーチは、それぞれのキーストーンに特定のモチーフがあり、内部から外部への重要な進歩を示しています。
 内部にむかって: モンスターの一大絵巻、恐ろしいものもあれば、ほとんど魅惑的なものもあります。
 中間のアーチには、おなじみの動物が登場するほか、特定のモンスターの顔のような人物の顔が、自然主義とヒューマニズムの明らかな始まりを示しています。
 外側のアーチでは、ごく最近、マーキュリーとの結婚式の際に美しいフィロロギアPhilologiaに同行した若い女性の中に、7つの中世の自由学芸の寓話(*注)が確認されました。

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1.弁証法-論理と、腰の周りの蛇。

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2.花瓶を持ったレトリック(レトリックの花を意図したものです!)
3.小学生が恐れる文法。
4.算術とその本

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5.音楽とそのハープ

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6.大きなコンパスを携えた幾何学模様。

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8.二つの星に手を伸ばす天文学

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(*注:おそらく、皆さんの方が詳しいと思いますが、備忘として調べたことを書いておきます。「”メルクリウスとフィロロギアの結婚”は、マルティヌス・カペラという5世紀頃に活躍したアフリカ出身のローマの著述家であり、弁護士をしていたとされる知識人。全9編からなる本書は、中世における自由七科の地位を確立し、後の学問に大きな栄養を与えた書物として知られる。アレゴリーを用いて学問を論じた、いわば百科全書。最初の二編は、擬人化されたフィロロギアとメルクリウスの婚約と結婚を描き、残りの七編は自由七科がフィロロギアの召使として現れ、それぞれが自らを説明する。カペラは、自由七科目を、文法、論理、修辞、幾何、算術、天文、音楽に限った。」すごいですね。5世紀にローマで書かれた本の内容が、どのように伝播していったのか。いや、単純に自由学芸がすでに浸透していたし、アレゴリーというのもまた表現手段としては普通だったから、すでに人口に膾炙していた?いずれにしても、学のある発注者、建築家や職人さんの仕事に違いないですね。)

何とか写真を見つけられたものを、貼ってみましたが、表現も分かりにくくて、あっているのかどうか。

サクサクと終了したいのに、どうしても長くなってしまいます。続きます。

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テーマ:歴史 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2023/09/24(日) 20:15:12|
  2. サントル・ロマネスク 18-36-37-41-45
  3. | コメント:0
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