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イタリア徒然

イタリアに暮らしながら、各地のロマネスクを訪ねた記録

ウンブリアその1 アッシジ

この町を初めて訪れたのは、もう20年ほども前になります。当時、シエナに滞在していたのですが、シエナがあまりにも美しい町なので、どこに出かけても、やっぱりシエナの方が美しいな、と思うことばかりだったのですが、このアッシジの美しさには瞠目した記憶があります。石材の色が白やピンクで、その上、ついきのう洗ったばかりというほどに清潔で、そのために町全体が明るくて、とてもすがすがしい印象を受けたんですよね。
そして、20年後。やっぱり美しい町です。現在の町の基礎はゴシック時代の建物が中心になっていますが、ロマネスク期およびもっとずっと古いローマ時代の建物も混在しています。今回の旅の目的はロマネスクですし、通常ゴシックはあまり好みではないのですが、この町のものは、なんかすんなりと受け入れてしまえます。ゴシックといっても、とてもシンプルで、変に荘厳壮大なイメージを与えないのですね。特にサンタ・キアラは、教会前の広がる広場と、そこから眺められるウンブリアの美しいパノラマのせいもあって、とても気に入ってしまいました。ホテルがすぐ側だったこともあり、朝に夕に、広場のテラスに座って、美しい緑の景色を眺めていました(しかし、サンタ・キアラの写真は一枚も撮ってないので、われながら驚きました。ずいぶん長い間眺めたんだけども)。

では、旅の目的、ロマネスクを回ります。

Duomo - S.Rufino
まずは、ドゥオモ、サン・ルフィーノ聖堂です。
町の高台の方にあり、中心部からかなり急な坂道(サンダルで歩いたとき、滑って転びそうになりましたが、そのくらいの急な坂道。雨でも降ったら、大変なことになります)をよっこらしょと登っていくと、突き当たりにとても印象的なファサードと大きな塔が見えてきます。バラ窓があって、そしてすごくたくさんの変なものたちが、ファサード中にちりばめられています。わたしが最も引かれたのは、バラ窓の下でファサードを上下に分けている軒送り部分にある帯の装飾(上の写真)。鳥だったり獣だったり、何か変な形の生き物が、それぞれダブルで彫られていて、なんとも愛らしいのですよ。その他、ポルタイユを取り巻く装飾もすばらしいです。鐘楼も美しいです。
内部はガラーンとしていますが、地下にクリプタと美術館があります。残念ながら撮影禁止だったのですが、クリプタの壁に一部残っているフレスコ画は、とても愛らしいものでした。


S.Maria Maggiore
次に向かったのが、サンタ・マリア・マッジョーレ教会。
ファサードは簡素ですが、後陣はしっかりロンバルディア風のロマネスク装飾で美しいです。内部は、残念ながらここもすべて新しくなってしまっていて、面白みはないのですが、幸いかなり古いクリプタがのこされています。ローマ時代の家だったところということ。石積みから何から、本当に古い、という感じでした。古ければいいってわけでもないんですが、こういう適度に古い(といってもロマネスクは千年も昔の話なんですが)のは、好きなんですねぇ。


S.Pietro
そして、サン・ピエトロ。
サン・フランチェスコはそのキャリアを、この教会からはじめたんだそうです。ロマネスクより後代に作られたらしいファサードは、四角でへんてこですが、ここは中がよいです。重厚な石積みの円柱で区切られた三身廊で、シンプルながら、あ、ロマネスクだ~と安心するというか。この地のほかの教会が、すべて中身はバロック時代とかにぴかぴかに改装されちゃっているので、ますます親近感を持ちました。
屋根も、後代に付けられたものでしょうね。クリプタがあり、のぞけるようになっていましたが、これはすっかり新しい内装にされてしまっていて、全然面白くありません。現在は展示会場とかに使用されているようです。


S.Stefano
このサン・ステファノは、通常とても詳細な解説のあるお気に入りのツーリング・クラブのガイドブック(イタリア人旅行者が必ず携行している緑色の本です。州ごとに分冊で、芸術文化系の情報はかなりコアなところまで紹介されていて、とてもお役立ちの一冊です。ただ車で回る人向けなので、電車やバスで回る場合必要な情報が一切ないのが、辛いところです)にも一言も触れられていないので、見逃すところでした。ミネルバ神殿のある町の中心部の広場から、サン・フランチェスコ聖堂に向かう道の途中、サン・ピエトロにも近い、建て込んだ一画にあります。坂道の上の方から、かわいらしいロンバルディア様式の後陣が垣間見えます。中はこのようにちょっとしけて黒くなってしまったような石積みで、とっても地味ですが、落ち着くつくりです。


ロマネスク時代の建造物は、このくらい。
こうして見て歩いていると、アッシジの町は、フランチェスコが名を上げる前から、多くの教会を持つ裕福な町だったことが分かります。彼がキリスト教に目覚めてしまう前にも、この小さな土地に、これだけ多くの教会があったわけですから、そういう環境だったのかもしれません。時代を考えると、ドゥオモもサンタ・マリア・マッジョーレもサン・ピエトロも、できてからさほどの時間がたっていたわけではないので、ピカピカしていたのでしょうし。


ここまで来たら、せっかくですから、やはりサン・フランチェスコやサンタ・キアラゆかりの教会も、訪ねないわけにはいきません。


S.Francesco
サン・フランチェスコ教会です。
数年前にこの地域を大地震が襲ったとき、いくつかのフレスコ画は、ひどく損傷を受けたはずですが、今ではすっかり修復も済み、美しい姿を取り戻していました。外からは巨大な印象ですが、中に入ると、上下に別れているせいもあるのでしょうか、また淡い色調のフレスコ画がびっしり壁を覆っているせいもあるのでしょうか、外から見る大きさほどの壮大さは感じられず、こじんまり、とはいえないまでも、落ち着いた祈りの場でありえる印象を受けました。ただし、観光客の数は半端じゃなく、団体が行きかい、ジョットの鑑賞すら落ち着いてできないわさわさした雰囲気だったのは、仕方のないことではありますが残念です。ジョットのフレスコ画のいくつかはとても好きですが、彼の作品をじっくり鑑賞したいならば、よっぽど季節外れの早朝とかに行かないとだめですね。
全体ゴシックなんですが、でもファサードのバラ窓の周囲や軒送りの意匠など、サン・ルフィーノと同じなので、え~って感じでした。


S.Damiano
今回初めて訪れたサン・ダミアーノ。ここはとても気に入りました。何でも、サン・フランチェスコが、夢のお告げを受けて、古くてすでに放棄され朽ち果てていた教会を、一つ一つ石を積みながら再建したのが始まりとか。オリジナルの教会は12世紀、つまりロマネスク時代のものらしいです。
フランチェスコのあとを追って出家したサンタ・キアラが、ここにクラリッサ修道会を創設して、生涯活動したそうです。今はサンタ・キアラ教会に眠っていますが、生涯を閉じたのもここらしいですね。
まず礼拝堂にアクセスして、その後食堂とか回廊とか全部を回れるようになっているのですが、すべてがミニ・サイズ。階段、小部屋、食堂のサイズ。小さくてかわいらしい。何を思い出したかというと、カタルーニャにいくつかあるダリとガラの暮らした家や城。どうやらガラの趣味で、小さなかわいらしいものがぎっしりしているんですが、不思議と印象が重なりました。小さくてかわいらしい。女性らしい繊細さというのか。
実によいです。宗教には興味のないわたしですが、それでも、祈りとか、宗教の本質的なことを、ちょっと考えさせられたりする、そういう、何か"気"みたいなものを今でも宿している場所のように感じました。
ここへは、オリーブの林の中を、徒歩で行くのがよろしいですね。結構な坂なので、体力がないと無理ですが、車できゅっと乗り付けていくような観光地ではないように思いました。

アッシジ自体は、とても観光地ですが、基本に教会があるせいか、比較的落ち着いていて、喧騒の少ない町です。城壁に囲まれて、小さいという物理的なものもあるのでしょうが。教会が、サン・フランチェスコも含めて、一切入場料を取らないのはすごいな、と思いました。ま、イタリアは、基本的に入場料を取る教会は少ないのですが。バチカンのあるせいでしょうか、なんか宗教性みたいなのを、変に大切にしたがるみたいな、姿勢が強いようです(やせ我慢みたいな教会もあるように思いますが)。まぁ、サン・フランチェスコほどの人気者を抱えていれば、黙っていてもお金は集まってくるという現実もあるでしょうが。
小さい町といっても、サン・ルフィーノからサン・フランチェスコまで歩けば、結構な距離があります。それを行ったり来たりの上に、急坂も登ったり降りたり。旅の最初から、いきなり体力勝負な旅になってしまいました。

さて、次はペルージャに向かいます。
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  1. 2008/09/20(土) 22:45:23|
  2. ウンブリア・ロマネスク
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

No title

やっとたどり着きました。アッシジいい町ですね。不法に路上駐車していて、おまわりさんに謝りまくって違反切符をまぬがれたことがありました。日本のように杓子定規じゃないところが嬉しかったです。
モトグランプリに造詣が深いとは恐れ入ります。さすがハートはイタリアーノ。そしてそして、精力的なロマネスク探訪に脱帽!お疲れの出ませんように、そして可能なら「ロマネスクのおと」に詳細のアップをお願いしますね。
  1. 2008/09/22(月) 23:49:00 |
  2. URL |
  3. otebox #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

corsaさん(なんか呼びにくいな 笑)、
ここに書き込むのは初めてな、さっきリンク切れがなおってた件でメールした長年の友の私です。
え~、アッシジなんですが・・・。
昔すごいことがありました。
当時はまだ若かった(笑)親と旅行で行った時のこと。
母が自分の日記がわりに絵はがきを書いて自分宛てに出す、ということを旅行中ずっとやっていたのですが、アッシジのチェントロの石段に座ってそれを複数枚書いていて、そのまんま忘れて来ちゃったんです(切手なんてもちろん貼ってないですよ)。
それがですね、帰国してしばらくすると、切手が貼ってないまま一枚も紛失しないで日本の実家にちゃんと届いたんだって。
すっごいですね、アッシジというところは。
よそだったら十中八九あり得なかったんじゃないのかな。
あの出来事についてばかりは、よ~く考えると、今もって並みでなく感慨深いものがあります。
  1. 2008/09/23(火) 20:20:00 |
  2. URL |
  3. 長年の友 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

アッシジはやはり何度行ってもいいかなって思える町ですね。サン・ダミアーノは前回行ってないから、今度は行きたいね。
  1. 2008/09/24(水) 01:20:00 |
  2. URL |
  3. クリス #79D/WHSg
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No title

oteboxさん
謝りまくって違反切符なし、すごいですね。でもそういえば、外国人はどうせ罰金取れないから大丈夫って話、昔留学生やってたとき聞いたことあります。いい加減な国ですが、旅行者には楽しいですよね。
HPへのウンブリアのアップは、相当かかりそうです。まずはコモ湖をアップできそうです。
  1. 2008/09/24(水) 20:11:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
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No title

クリスさん
サン・ダミアーノ、よかったですよ。本当は撮影禁止なのに、人がいなかったのをいいことについ撮ってしまうほど。へへ。
  1. 2008/09/24(水) 20:13:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
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No title

Aちゃん
サンキュ。面白い経験しましたねぇ。
郵便といえば、昔友人が外国からはがきをくれたものの、番地が分からず、Via○○の一番奥の右側、と書いてくれて、見事に届いたことがあったことなど、ふと思い出しました。
  1. 2008/09/24(水) 20:15:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
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No title

アッシジの記事を拝読して一句できました。
ロッシ良し、うっしっしで、アッシージ。
お粗末様でした。
  1. 2010/07/31(土) 18:18:00 |
  2. URL |
  3. たかし #79D/WHSg
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No title

くくく…。
昔の記事にまで、アクセスしていただいて、ありがとうございます。
  1. 2010/07/31(土) 22:59:00 |
  2. URL |
  3. corsa #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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